煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
ベッドの中はもちろん昨日と同じ体勢。
背を向ける俺にくっつくように寄り添う雅紀。
暗闇の中、壁をジッと見つめつつ浮かんでくるのはさっきのあの表情。
適当にはぐらかされてその話はうやむやになってしまったけど。
どう見たってイエスだろあれは。
雅紀、好きな人いるんだ…
どんな可愛い子なんだろ。
そりゃあんだけ顔が良かったらモテない筈がないもん。
あのマツジュンとかいうヤツが言ったのはそういう意味だったんだ。
雅紀の周りは可愛い女子がいっぱいいるってことだろ。
俺みたいなヤツ相手にされる訳ないって…
背中から伝わるぬくもりはじんわりと熱を連れてきて。
その温かさに包まれてこうして眠ることが出来るなんて、それだけでもありがたいって思わないと。
それぐらいしか俺には望めない。
こんなに近くでぬくもりを感じられるのに、この想いはどうしたって届くことはないんだから。
…だったら。
スースーと寝息を立てる背後を感じつつ、そっと身動いで。
もぞもぞと反転し、雅紀と向かい合った。
至近距離で漏れる寝息。
暗闇でも分かるきれいに象られた顔。
やっ…ばい。
自分で向き直ったくせに、余りの近さとダイレクトに感じる雅紀のぬくもりや匂いに胸がざわめき立つ。
口を開けたら心臓が飛び出てしまいそうで、ぎゅっと唇を結んだ。
少し高い位置にある顔をジッと眺めれば。
見れば見るほど胸が苦しくなってきて。
固く閉じた瞳は、きっと俺の望む色では俺を映してはくれないから。
少しずつ距離を詰めて。
そっと雅紀の胸に擦り寄った。
っ…
途端に感じる温かさ。
まるで雅紀そのものを象徴するひだまりのようなぬくもり。
こんなこと一人でやって何になるんだって。
もし雅紀が起きたらどう説明すんだって。
考えなくちゃいけないことは山ほどあるけれど。
今はただ、このぬくもりに触れていたい。
ねぇ雅紀…
俺ね…
ゆっくりと見上げた先には少し開いた形の良い唇。
そこから漏れる寝息がかかる距離で、逸る心臓と昂る熱を感じながら。
「お前が好き…」
祈りにも似た想いとともに。
宛がうようにそっと、その唇を俺ので塞いだ。