煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
寝ている雅紀に想いを吐き出したあの日から。
俺の中ではある程度気持ちの整理がついた。
雅紀と同じように俺も"家族"という立ち位置で見れるようになったというか。
だから、一緒に寝ることも満員電車での一緒の通学もだいぶ慣れてはきた。
雅紀にとっての俺は大事な兄貴なんだって。
誰よりも近い距離に居るのは俺なんだって、そう思うようにしたんだ。
だから前みたいに変に動揺することもほとんど無くなったし。
相変わらずのスキンシップの多さにいちいち心臓を鷲掴みにされるのは変わっていないけれど。
「じゃあねかずくん、また帰り迎えに行く」
「ん、じゃあね」
靴箱で手を振り合って別れた後、ポンと肩を叩かれて振り返ると。
にやっと口角を上げる翔ちゃん。
「…なんかさぁ、ニノ変わったよな」
「は?なにが」
「いやなんか…雅紀とめちゃめちゃ仲良くなってんじゃん」
「…別に普通だろ。兄弟なんだし」
「兄弟ねぇ…」
歩きながら尚も横目で窺ってくる瞳。
なんだよ、なんか文句あっか。
俺の気持ちはもう封印したんだ。
だから今更翔ちゃんにとやかく言われる筋合いなんかねぇんだよ。
「あ、そーだ。お前さぁ、結局決めたのかよ」
「ん?なに?」
「進路。大学だよ。面談明日なんだろ」
階段ですれ違う生徒たちを避けながら、翔ちゃんのその問いには答えられずにいた。
まだ決めかねている進路。
大学に行くべきか、就職するべきか。
家のことを考えたら就職をする方がいいに決まってる。
家族も増えた一家の大黒柱としての親父のことを思ったら、そう考えるのが普通の流れで。
もちろん俺だってそうするもんだと思い込んでいた。
でも。
"和也がやりたいようにやれ"
面と向かってそう言われた時は正直驚いて。
と同時に、親父の愛情を改めて感じさせられた瞬間でもあった。
明日に迫った三者面談で、親父にもまだはっきりと伝えていない俺の気持ちを告げることになる。
いつまでもガキみたいに甘えてる場合じゃないって。
翔ちゃんや智を目の当たりにして心底そう思ったから。
それに…
高校卒業を機に雅紀からも卒業しなきゃなって。
これは自分の為に、っていうのが本音だけど。