煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
「へぇ、工科大かぁ。なんだよめっちゃ頭いいじゃんか」
駅前のファーストフード店でのんびりした声をあげるのは。
「俺も来月一級船舶の試験なんだよなぁ~。はぁ~受かっかなぁ…」
ポテトを齧りながら窓の外をぼんやりと見つめる智で。
あのコンビニで偶然会った日から、智とはたまに会って互いの近況報告をしている。
放課後、急なクラスの用事ができたと謝ってきた雅紀と別れたはいいものの。
バイトもない日で早い時間から家に帰るのがなんかもったいなくて。
一か八かで連絡したらすぐに合流できて今に至る。
「それってさ、お父さんの影響?」
「ん~…まぁね。親父とおんなじような仕事したいなって思って」
機械工学のエンジニアとして働く親父の背中を小さい頃からずっと見てきた。
毎朝早く家を出て遅くまで仕事をしていた親父。
その親父の口からは"辛い"とか"キツい"とかそんなネガティブな言葉を一度も聞いたことがなくて。
何よりその仕事が好きで、だからそうさせてるんだって、幼かった俺はそんな親父を尊敬していたから。
もちろんそれは今も変わっていないけれど。
だからこそ、少しでも親父に近付きたいって。
そう思ったんだ。
「もしかしたら俺が乗る船とか作っちゃったりして」
「ふふっ、どうだろ。そっちに進めばそうなるかもね」
学校終わりの店内は色んな制服の学生で賑わっていて。
そんな喧騒の中、智がふいに切り出した。
「そうだ、弟くんとどうなった?」
「ごほっ…!」
飲んでいたジュースが思わず気管に入りそうになったのをギリで堪える。
「お、なんか進展あったのか?」
「なっ、ないよ!ないって…ある訳ねぇじゃん」
「なぁんだそっかぁ…」
こと残念そうに口を尖らせてポテトを齧る智。
智にだけは打ち明けていたこの気持ち。
最近は胸の奥に閉まっていただけに急に引っ掴まれて動揺してしまった。
「でもさぁ…いつまでもそれじゃ辛くね?」
「……」
「ニノはさぁ、いいの?それで」
「いいも何も…無理だもん」
「え、言ったの?」
「言ってない」
「なぁんだよ。そんなの伝えなきゃ分かんねぇじゃん」
「……いいよ」
もういいんだよ、それは。
だって今は一番いいポジションに居るんだもん、俺。