煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
二駅も前で降りてしまったけどまた電車に乗る気にはなれなくて。
仕方なく街灯の灯る道をとぼとぼと歩く。
なんだか今日は家にも帰りたくない。
こんな俺のままで雅紀に会いたくない。
翔ちゃんち行こっかな…
かじかむ手をポケットに入れてスマホを取り出そうとした時。
鳴り響いた着信音。
驚きつつも取り出したそこに表示されていた名前に、きゅっと胸が締め付けられた。
無理矢理交換させられたLINEの変なホーム画面。
躊躇いながらタップしてそっと耳に当てる。
「……はい」
『出た!やっと出た!かずくん今どこ!?」
やけに慌てた様子の雅紀の声色。
そして外なのか雑音に紛れて荒い息まで聞こえてくる。
「…どうしたんだよそんな、」
『どうしたじゃない!どこ居んの今!』
「え…いや、」
『ずっと探してたんだから!どこ?
すぐ行くから教えてっ!』
いつになく真剣な声に気圧されて素直に居場所を伝えると。
『…分かった、五分で行くから待ってて!
絶対そこから動くなよ!いい!?」
「えっ、あ…」
ブツッと切れた通話に成す術は無く。
風のようなやり取りに流されるがままだったけど。
今は雅紀に会いたいような会いたくないような。
…だって俺自信ない。
今雅紀に会ってしまったら絶対余計なことを口走ってしまう。
せっかく押し込めてきたこの気持ちを。
その優しさに押されて溢してしまうから。
だけど…
煌々と明かりが漏れる自販機の横。
ブロック塀に寄り掛かってしゃがみ込み、膝を抱えて俯いた。
濡れた前髪とマフラーが一層寒さを連れてきてぶるっと身震いをする。
熱いくらいの雅紀の体温を思い出しながら。
優しく見つめてくる細められた瞳を瞼に描きながら。
そうしているとさっき引っ込んだはずの涙がまた込み上げてきて。
雅紀…
早く会いたい…
早く来いよ、バカ…