煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
すぐにでも吐き出してしまいたかったモヤモヤは、結局翌日の夜まで持ち越すことになった。
ちょっと聞いてくれるだけで良かったのに。
昨日はまぁまぁ遅い時間だったけど躊躇いもなく通話をタップした俺。
それが許される都合の良い相手なんて一人しかいないに決まってる。
バイト終わり、店舗横の駐車場の縁石にしゃがみ込んでソイツを待っていた。
煌々と光るスマホ画面に視線を落とせば無意識に開いてしまうアイコン。
常に一番上を陣取っている馴染みのトークルームをタップして。
"終わったら絶対連絡してね"
しっかりと念を押すように綴られた文章にはぁと溜息を一つ。
今日みたいにバイトのある日は必ず雅紀が駅まで迎えに来てくれている。
しかも自宅の最寄り駅じゃなくてここから乗る駅に。
そして一緒に電車に揺られて帰るというのがバイトがある日のルール。
どんだけ過保護なんだよ、そこまでしなくていいよって突っぱねたこともあったけど。
でも雅紀は一歩も譲らなかった。
"かずくんを絶対泣かせたりしない"って誓ったから、だって。
俺のことになるとびっくりするくらい頑固になることも最近よく分かってきた。
優しくて真っ直ぐで正義感が強くて。
それでいて鈍感で天然っぽいところもあって。
考えてることがイマイチ分かんなくてめんどくさくなる時もあるけど。
そういうとこも全部ひっくるめてさ。
もう…
だいぶ好きになってんだわ、俺。
綴られた文字ですら雅紀の分身と思える程に。
悩みの元凶であると同時にすぐにでも会いたいと思ってしまうアンバランスなこの心。
そんな現状にはぁ…とまた溜息をついた時、のんびりした声が横から降りかかってきた。
「おぅ、待たせたなぁ」
「…おっせーし」
「なんだよぉ、わざわざ来てやったのに」
店舗の灯りに照らされた顔は意味もなくにやにやしたまま隣にしゃがみ込んでくる。
「あれだろ?俺のお祝いだろ?今日」
「はぁ?なにお祝いって」
「え、言わなかったっけ?んふふ。
受かっちった、一級船舶」
「…えっ、うそ!マジで!?」
自慢気にピースしながら目を細める智。
「自信ないって言ってたじゃん!無理かもって」
「ん~俺もそう思ってたんだけどさ。なんかしんねぇけど受かった」