煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
へへっと締まりのない顔でそう言ってのける智。
昔っからそうだった。
ぼーっとして何にも考えてなさそうに見えて実はやることはやってる。
算数の小テストだって、できないって泣きついてきたクセに俺よりいい点取ったこともあったし。
今回の試験だって散々"無理"だの"終わった"だの弱音吐きまくってたのに。
「はぁ~マジで良かったぁ、受かって。ほんと危なかったんだよ」
「…ふぅん、よかったじゃん」
「ふふっ、何だよその言い方。あ、なんかお祝いねぇのか?」
言いながら差し出された手の平をぺちっと払い除ける。
未だへらへらした顔で笑う智を見ていたら、雅紀のことで悩んでいる自分が段々バカらしくなってきて。
「あ、そだ。ニノの話聞きに来たんだった。んで?」
「んで?じゃないよ。いやなんかもういっかな~って」
「えぇ?何だよそれぇ!せっかく来てやったのに」
「くは、もういいよ。肉まん食って帰ろ」
立ち上がって見下ろす先には"はぁ?"って俺を見上げる智の変な顔。
正直なところ、智の嬉しいニュースを聞いた途端に俺の悩みなんてどこかに行ってしまってた。
そもそも悩みとも呼べないぐらいのものだったのかもしれない。
あんなに嬉しそうに報告してくれた後に言う話でもないし。
それに喜びをストレートに表現して笑う智を見ていたら、何だか無性に雅紀に会いたくなってきて。
ぐるぐる考えるより自分の気持ちに正直に。
ぐらついた天秤なんていとも簡単に重い方に傾くんだからさ。
やいやい言いながら後ろを付いてくる智を尻目にスマホを取り出す。
"もうちょっとしたら帰る"
送信するとすぐに既読が付き。
"じゃあ俺も今から出るね"
笑顔の絵文字と一緒に送られてきたその文章に思わず笑みが溢れた。
いいや。
今は深く考えるのはやめよう。
せっかく好き同士で一緒に居られるのにおかしな邪念に惑わされてる場合じゃない。
それに勝手に俺だけが色々考えてたってどうしようもないじゃん。
「智、お祝い肉まんでいい?」
「えぇ~マジかぁ…じゃあピザまんにする」
膨れる素振りを見せる智の傍ら、スマホの通知を気にしつつ雅紀の分の肉まんも追加した。