煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
ガタゴトと電車に揺られつつ、正面の真っ黒な窓に映る影をぼんやりと見ていた。
今日はなぜか空いている車内。
肩を並べて座るその手元にはさっき買った肉まん。
"かずくんから買ってもらった物なんて勿体なくて食べれない"って興奮した顔がまだ頭から離れなくて。
そんなこと言われたら照れ臭くてしょうがないっての。
でも"何バカなこと言ってんだよ"って返しながらも内心凄く嬉しがってる自分が居て。
静かな車内では皆こぞってスマホに夢中。
チラッと隣を見上げればうつらうつらしかける横顔が目に入り。
ここに居る誰もが知らない俺たちの関係。
知られちゃいけないし教えたくもないんだけど。
でも何だか今日はすごくいい気分。
胸を張って大声で自慢してやりたい。
俺の恋人はコイツなんだって。
自分で言うのもアレだけど俺めちゃくちゃ好かれてんだぞって。
そんで俺もめちゃくちゃ好きなんだからなって。
ふいに不規則な揺れに呼応してゆらりと隣が傾いた気配がした。
「ん…ぁ、ごめん…」
掠れた声ですぐに持ち直した仕草に多少の寂しさを感じてしまう俺は相当末期なのかも。
「…いいよ、ここ」
「ぇ…でも、」
「いいって。ほら」
丸めていた背中を雅紀に合わせて伸ばせば少し驚いたように目を開いて。
目尻に皺を寄せて笑う顔を間近に見るとどうしても胸が高鳴ってしまう。
「…くふ、かずくんの肩で寝れるなんていい夢見れそう」
「っ…」
言いながらコツンと寄り添ってきた左肩。
またもやこんな至近距離で爆弾を落とされて。
よくも平気な顔でそんなこと言ってくれたな、人の気も知らないで。
左側からの熱いくらいのぬくもりを感じながら。
考えないようにって封印したあのことがまた思考を覆いだす。
雅紀は確かに言葉や態度で"好き"って表現してくれるけど。
それって結局どういう意味合いなの?ってこと。
もしも。
もしもさ。
俺ばっかりが雅紀との"この先"を意識してんだとしたら。
だとしたら、俺ってただの超うぬぼれ変態野郎じゃん。
雅紀のそんなはずじゃなかったのにって顔を想像するだけでゾッとする。
一週間も二人っきりなんてそもそも無理なのかも。
やっぱ翔ちゃんちに逃げるのが無難かなぁ…