煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
「あ〜その日ダメだわ」
「えっ」
ガヤガヤと活気に溢れる学食内、対面でカツ丼をがっつく翔ちゃんから呑気な声が届いた。
「日曜からおふくろがこっち来んだわ。大学の下見と新しい家探しでさ」
「あ〜…そっか」
「なに?なんで?」
「ぁ、いや…」
頬をぱんぱんに膨らませてそう問い掛けられ、濁すようにずずっとうどんの汁を啜る。
まさか頼みの綱の翔ちゃんにフラれるとは。
マジか…どうしよ。
「あ、そういや雅紀のさ、」
「ごほっ…!」
いきなり出てきた"雅紀"というフレーズに思わず咳き込んでしまって。
「ふは、どうした?大丈夫?」
「ごほごほっ…!ん、だいじょぶ…」
ここ最近新たに気付いたこと。
俺って案外分かりやすいヤツなのかもしれない。
自分じゃ常にポーカーフェイスを貫いてるつもりなんだけど。
どうにも雅紀のことになるといちいち反応してしまう、らしい。
「ふ〜ん…」
「……?」
小さな声に目を上げれば、もぐもぐと咀嚼しながらどことなく楽しそうに細めた瞳とぶつかり。
明らかに何か言いたげな顔。
この顔は大抵余計なことしか言わない時。
「いや俺の勘違いだったらごめんだけどさ」
「……なに」
「お前雅紀とヤったろ」
「なっ…!」
まるで心臓のど真ん中を矢で射抜かれたように息の根が止まった。
なっ、なんでっ…!?
「え、マジ?図星?」
「ちがっ…まだヤってない!」
「ふは、まだって!てことは近々っすか?」
おい、なんか言い返せ俺。
じゃないと認めることになんぞ!
内心焦っても言葉にならず、ただただ顔が熱くなるのを自覚するばかり。
「ぶはははは!ニノってマジで分かりやすいのな!」
「っ、うるさっ…」
–––––ドンッ!
反論しようとした矢先、テーブルが揺れたと同時に握り締めた拳が視界に入った。
驚いて顔を上げれば見覚えのある顰めっ面が俺を見下ろしていて。
「…るっせーんだよ。静かに食え」
「っ…」
不機嫌そのもので低く放った言葉は直球で突き刺さり。
まともに受け止めてしまった俺は不覚にも目を泳がせてしまった。