煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
「おいおいおっかねぇなぁ。んなキレんなよ」
固まる俺の耳に届いたのは翔ちゃんの呟き。
声は穏やかだけど目は全然笑ってなくて。
「…お前に関係ねーだろ」
「は?なくはねーだろ。つぅかさ、お前なんなの?」
混雑した学食内では俺たちのやり取りなんか誰も見向きもしていない。
ただこの場所だけに不穏な空気が漂っているような。
「あ?なにがだよ」
「なにじゃねぇよ。こないだもニノに突っかかってたろ」
言いながら段々と鋭くなる翔ちゃんの目。
向けられたコイツも更に眉をひそめて睨みつける。
マツジュン、とか言うコイツ。
雅紀のクラスメイトだか何だか知らないけど、やけに俺に敵意をむき出しにしていて。
"お前には無理だと思う"ってコイツに貶された後、どうだと言わんばかりに雅紀と両想いになって付き合うことになった。
けれど腑に落ちなかったのは"俺は認めない"って捨て台詞。
なんでお前なんかの承諾を得なきゃいけねぇんだよ!って。
その時はめちゃくちゃ胸の中ざらついたけど。
あれから特に会うこともなかったから気にも留めてなかったのに。
こんな不意打ちされて友達まで巻き込まれちゃって。
しかもどういう訳か当人の頭上で睨み合いが続いてるっていうおかしな状況。
「…あの、」
「お前さ、雅紀と同じクラスだったよな?」
「あぁ。それが?」
「いやあの…」
「雅紀とコイツのことで文句あんだったら俺が聞いてやるよ」
「あぁ?なんでお前が出てくんだよ関係ねーだろ!」
ガタンッと大きな音を立ててテーブルがずれると、周りに居た生徒の視線がこちらに集まった。
まさに一触即発。
さすがにマズいと直感し慌てて二人を止めにかかろうとしたら。
「あっ居た!潤っ!」
少し先からテーブル列の隙間を駆けてくる男。
俺たちの前まで来て瞬時にこの空気を察したのか。
「あっ、もしかして潤が何かしました!?
すみません!おケガはありませんか!?」
やたら低姿勢で顔色を窺ってくるソイツ。
制止されたマツジュンは面倒臭そうにため息を吐いて。