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煩悩ラプソディ

第45章 流星エピローグ/AN





悶々とした気持ちを引きずったまま時は過ぎ。


あれよあれよという間に親父たちが新婚旅行に旅立つ日の朝を迎え。


"じゃあ後のことはよろしく頼むな。和也、雅紀くんに迷惑かけるんじゃないぞ"


と余計な一言を残して楽しそうに出て行った。


結局、今日から二人きりでどうなってしまうのかってことが頭から離れなかったこの数日間。


智にも翔ちゃんにも相談できないままこの日を迎えてしまったけれど。


しかも相談どころかマツジュン絡みで変なことブっ込まれるし。


先ヤられんぞって…んなわけあるか!


そのことでナイーブになってんのに畳み掛けてくんな!


…って、別に翔ちゃんは知らないから悪くないけど。


当の雅紀はと言うと、そんな闇を抱える俺と反して至っていつも通り。


やっぱ俺だけだよね、こんなことずっと考えてんの。


はぁ…
雅紀の頭ん中覗ければいいのに。


なんて浮世離れする思考の中、どことなく機嫌が良いように見える横顔がふいにこちらを向いて口を開いた。


「ねぇかずくん。今日の夜は何食べたい?」

「ぇ…別に何でもいいけど。お前は?」

「俺はねぇ…言っていい?」

「なに?」

「かずくんが食べたいっ」


弾むような声色ではっきりとそう発したのは聞き間違いじゃないハズ。


驚いて振り向いた先には満面の笑みで俺を見つめる二つの瞳。


なっ…


「くふふっ、かずくんが食べたいんだけど。いい?」


尚も無邪気に笑うその瞳の奥がきらりと光ったような気がして。


なっ…えっ…?
えぇっ…!?


「…ずっと我慢してたんだよ俺。やっと今日からかずくんを独り占めできる」


いつのまにか立ち止まってしまっていた歩道で。


こんな晴れ渡った朝に耳元で囁かれるフレーズじゃないだろ絶対。


「くふ、赤くなってる。可愛い」

「っ…!」

「ほら遅刻しちゃうよ、急ごう」


悔しいかな大したリアクションも出来ないまま。


掴まれた腕がジンと熱くなるのを感じつつ、ただただ引っ張られて雅紀に着いていくしか術はなく。


ウソ…


ウソウソウソウソウソっ…!


突然のことに思考回路はショート寸前。


そんな素振り全然見せなかったじゃん…!


揺れる黒髪から垣間見る横顔は憎たらしいほどに清々しくて。

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