煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
学校に着くまで続いたおびただしい数の雅紀からの着信は全て無視。
早足で駆け込んだトイレでようやく息を吐いた。
こんなの意味分かんねぇって絶対思ってる。
それは俺も痛い程分かる。
でも、一度ハマってしまったループからなかなか抜け出せないのが俺の弱点で。
しかもあんな密室空間で雅紀とゼロ距離だなんて。
散々自分勝手に妄想しといてどの口が言うんだって話だけど。
ただ単に雅紀に見透かされそうで怖い。
浮き足立ってる自分を知られるのが恥ずかしい。
例え雅紀も同じこと思ってたって分かった今でも。
これってさ…俺まだちゃんと自分に向き合えてないのかな。
…雅紀のことを本気で好きな自分に。
蓋の閉じた便座に座り項垂れる。
いつもより早歩きで登校したおかげかHRにはまだ多少時間があった。
ここで気持ちを落ち着かせて行こう。
でも…雅紀には何て言い訳しよう。
嘘ついて雅紀を置いてったこと、何て謝ったらいいんだろ…
はぁと息を吐いたと同時に入口から人の声が近付いてきた。
二人らしきその声の主たちは会話を止めるでもなくそのまま中に入ってきて。
「お前さぁ、まだそんなこと言ってんの?」
「あぁ?いいじゃねぇかよ別に」
特徴のある鼻にかかったその声に一瞬でピンと来た。
マツジュン!とトウマ!
思わず息を止めて意味もなく気配を消すように耳を澄ましていると。
「だから無理だって言ってんじゃん。あんな可愛いお兄ちゃんがいるんだぜ?」
「別に関係ねぇだろ。相葉が決めることなんだから」
「いやだからさ、その相葉はお兄ちゃんにゾッコンじゃん?見てて分かんない?」
宥めるようなトウマの言葉に思いがけずじわじわと顔が赤くなる。
雅紀…クラスで何言ってんの?
緩む頬を静かに堪えていた矢先、トウマの言葉を受けたマツジュンの低い声に息を呑んだ。
「それが気に食わねぇんだよ!俺の方が相葉との付き合い長いのにあんな急に出てきたようなヤツにっ…」
トイレに響いたマツジュンの怒声。
「も~またすぐ怒る。そういうとこ良くないよ」
「るせえ、説教垂れんな!」
遠ざかる足音を聞きながら胸に広がるざらつきを止めようがなく。
と同時に翔ちゃんのあの台詞が蘇って振り切るように個室を出た。