煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
結局、今朝のことが気になって午前中の授業にはほとんど身が入らなかった。
マツジュンが怒鳴った内容は間違いなく俺の脳ミソを揺さぶったから。
声色を聞いただけでどんな感情を持って言ったのか分かるほどに。
付き合い長いって…そんなの知るかよ。
何で俺がアイツに憎まれなきゃなんねぇんだよ。
勝手にライバル視なんかされてどうしろっつーんだよ。
頭の中で"なんでどうして"がウロついてモヤモヤは募るばかり。
「あ〜つっかれた!ニノ〜飯行こうぜ」
首を回しながら疲れたアピールしつつ呑気な声で翔ちゃんが振り返る。
今朝から色んなことが起こりすぎて俺の方がくったくただっつの。
なんか食欲もそんなにないし。
…でも。
「今日何食おっかな〜。カツカレーにすっかな〜」
「…ねぇ翔ちゃん」
「んー?ニノ何食う?早く行こうぜ」
立ち上がって催促する瞳を見上げ、心の中で小さく決意。
今朝のマツジュンのこと、やっぱり翔ちゃんに聞いてもらおう。
それに今日から雅紀と二人きりだってことも。
翔ちゃんには言っといた方がいい気がする、なんとなくだけど。
「…あのさ、」
「あれ?雅紀じゃね?」
切り出してすぐ遮られたかと思ったら、向けられた視線の先にある後ろのドアへと釣られて。
えっ、なんで…!?
そこに立っている雅紀の姿にドキッと心臓が波打った。
"失礼します"と丁寧にお辞儀をして入ってきた雅紀は一直線に俺たちの元へ。
まだ言い訳も考えていなかった頭は突然のことにパニック寸前。
「櫻井先輩」
「えっ、俺?」
「ちょっと兄ちゃん借ります」
「っ、わっ…!」
言い終わるが早いか、ぐいっと手首を引き寄せ立たされて。
「かずくん来て」
チラッとこちらを一瞥した瞳は今まで見たことのない色をしていた。
雅紀が怒ってる。
やばい、怒らせちゃってる…
ぎゅっと握られる手首は手の平の熱がジンと伝わって。
まるで雅紀の感情を表しているようで鼓動が速くなる。
されるがままに連れてこられたトイレの中。
「えっ、ちょっ…」
「いいから」
躊躇する俺を押し込むようにして個室の鍵がカチャリと閉められた。