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煩悩ラプソディ

第45章 流星エピローグ/AN






とくとくと速まる心音が鼓膜を震わせる。


こんな場所で、っていつもの俺なら恥ずかしさが勝って突き放してしまうけれど。


ここ最近無駄に悩み過ぎた頭に追い打ちを掛けた今朝の出来事のせいか。


無条件に温もりを与えてくれるこの存在に素直に縋りたいと思った。


背中に回した手にぎゅうっと力を込めて。


そうすると雅紀の心音が伝わってくるようでそっと息を吸い込む。


マツジュンのことも、今日からの二人きりの生活のことも。


不安の根幹は他でもない雅紀のハズなのに。


勝手に不安定になってる自分を棚に上げてでも。


もうどうしたって離れられなくなってんだ。


より濃く香る整髪料の匂いと決して緩まない腕にまた高鳴りを増す鼓動。



…いい加減ちゃんと向き合えよ、俺。


雅紀とのこと進みたいって思ってんならビビってんじゃねぇ。


だって俺は間違いなく雅紀のことが好きで。


雅紀も間違いなく俺のことが好き。


だったらもう何も考えんなって。


自分の気持ちに正直になればいい。


……よし!



腕を緩めて体を離す合図を送れば雅紀もゆっくりと力を緩めた。


見上げた至近距離の二つの瞳には俺だけが映っていて。


「雅紀…」

「…うん?」


口角を上げて優しく微笑むその唇に意識を集中させ。


「…誓うから、これで」

「え?んっ…」


問い掛ける声を無視して顔を傾けながらその唇を塞いだ。


一秒にも満たないキス。


そこに決死の覚悟を込めて。


すぐに離した間近の顔は瞬く間に赤く染まっていく。


「かっ、かずく…」

「っ、ごめんっ!じゃあまた後で!」


真っ赤になって口を覆った雅紀を置いてバタバタと個室から飛び出した。


廊下を早足で歩きながら、今しがた自分のしたことに今更になって恥ずかしさが込み上げる。



かなり大胆なことをしてしまった。


しかもまた雅紀を置いてけぼりにしてしまったけれど。


でもこれでちゃんと誓ったつもり。


雅紀とも自分とも向き合う、って。



ひたすら爪先を見つめながらずんずんと進んでいく足取り。


心なしか食欲も湧いてきたような気がする。


ポケットからスマホを取り出して翔ちゃんへとメッセージを送り。


すぐに返って来た通知を見て急いで食堂へと走った。

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