煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
HR後、生田に連れられて資料庫に足を進めた。
俺みたいな一般の生徒はほとんど入ることのない部屋。
中に足を踏み入れると背の高い書架がずらりと並んでいて。
見渡す限り膨大なファイルの山。
この学校の色々な書類がここに眠っているのだろうか。
「あった。この一帯がまだ手付かずの場所でさ」
少し奥に進んだ辺り、片側の書架の数段を示され目を向ける。
これくらいならそんなに時間もかからないかも。
「じゃあちょっとお願いしてていい?俺、今から生徒会の方の打ち合わせあってさ」
「えっ?待って、俺一人でやんの!?」
「いやもう一人お願いしてあるから!ごめんなほんと!」
「ちょっ…」
またも両手を合わせて"ごめん!"と言いながら風のように去って行った背中を見つめて。
…なんだよこれ。
もしかして俺いいように扱われてない?
なんで生田が俺に声を掛けてきたのか意味が分かんなかったけど。
騙しやすそうとか思われてない?俺。
しかももう一人お願いしてるって…ソイツも可哀想なヤツだな。
多少のイラつきにふぅと息を吐いて目の前のファイルに手を掛けようとしたら。
前触れもなくガラガラとドアが開いて思わず手を止めた。
足音の近付く先に目を向けていると書架の間から人影が現れて。
「…よぉ」
ポケットに手を突っ込んでこちらへと歩いてくるのは同じクラスの松潤だった。
真ん前まで来てジッと見つめられる二つの瞳。
こんなに至近距離になったことがないから余りの威圧感に少し背筋が伸びる。
「…なに」
「え、あっ、いや…松潤も頼まれたんだ、生田に」
「あぁ…まぁそんなとこ」
正直、松潤が来るとは1ミリも思っていなかった。
申し訳ないけど人からの頼まれ事を快諾するようにはとても見えないし。
けど生田とはいつも一緒に居て仲良しだから引き受けてあげたのかな。
なんだ、意外と優しいとこあんじゃん。
「えっと…なんかこの辺を全部片付けるんだって」
「あのさ、」
手に取ったファイルを掲げてそう告げれば、間髪入れずに松潤の声で遮られた。
未だポケットに手を突っ込んだままの姿勢で。
これから作業に取り掛かるとは思えないような雰囲気を醸し出していて。