煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
"単刀直入に言うけど"
そう前置きされて真っ直ぐな視線が痛いほど突き刺さる。
何を言われるのか見当も付かないノーガードのまま。
次に発した松潤の言葉に完全にアッパーを喰らってしまった。
「俺は相葉が好きだ」
確実に耳に届いたフレーズ。
そして曇りのない真剣な二つの瞳。
「入学した時から…ずっと相葉のことが好きだった」
「…えっ?いやあの、」
「急にこんなこと言ってビックリしてると思うけど」
「ちょっ、えっ、」
予想だにしなかった松潤からの告白に一瞬でパニックに陥った。
それも冗談とはとても思えないくらいに真剣な眼差しで、更にあたふたしてしまって。
脳裏を過ぎるのはかずくんの顔。
「あのっ、ごめん俺さっ…」
「知ってる。兄貴と付き合ってんだろ」
「えっ…」
俺とは正反対の落ち着きを湛えた声が静かにそう呟く。
ドッドッと鳴る心音が鼓膜に響く中、そっと目線を落としたまま松潤は続けた。
「…知ってるよ、それ。でも…それでも伝えたかった」
「……」
「兄貴の…アイツのどこがいいんだよ…」
「……え?」
段々と俯いていく顔は小さく発するその口元を隠し。
視線を落とせばぎゅっと握り締める拳が目に入って。
え、震えて…
–––––ダンッ!
「っ!」
「…あんなヤツのどこがいいんだよ」
バサバサッと数冊のファイルが足元に落ちる音。
突然の音に思わず瞑ってしまった目を開けると、目の前には棚に拳を叩きつけてこちらを見据える瞳が。
その色のない瞳に本能的に身の危険を感じて。
揺らいでしまう瞳は動揺を隠し切れず、震えそうになる唇をぐっと堪えた。
動けぬまま見据えられること数秒。
ふいに張り詰めていた空気がスッと和らいだような気がして。
「…悪ぃ。お前にそんな顔させたい訳じゃない」
ぷいっと視線を逸らしたかと思えば俺に背を向けて歩き出す。
ハッとして渇いた喉を振り絞り呼び止めた。
「兄ちゃんはっ…かずくんは…俺の大事な人だから…」
それ以上言葉にならなくて押し黙っていると。
「…それも分かってる」
ぽつり小さくそう答えて、ポケットに手を突っ込んだまま静かに立ち去って行った。