煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
昇降口の傘立てに腰掛けて手持ち無沙汰にスマホをもて遊ぶ。
"30分だけ待って"とメッセージが来たのは今からちょうど30分前。
下校のピークを過ぎて人も疎らになった下駄箱前の空間で。
そろそろ鳴るだろう通知を今か今かと待つ自分がいて。
雅紀への"覚悟"を決めてから、その足で食堂に向かった俺は翔ちゃんに素直に打ち明けた。
今日から雅紀と二人きりになること。
そして、今夜"その日"を迎えるかもしれないこと。
そしたら翔ちゃんは元々大きい目をこれでもかってくらいに見開いて。
『マジ?初夜!?』ってそこそこのボリュームでバラしやがって死ぬほど恥ずかしかった。
でもやっぱり言って良かったんだと思う。
『ケガだけはすんなよ』ってその無遠慮な後押しにすら勇気を貰えたような気がしたから。
何だかんだで翔ちゃんにはいつも助けられてんなぁ…
手の中で右に左にとスマホを行き来させながら、自然と上がっていく口角を自覚する。
今日から家に訪ねてくるらしいお母さんのことを『めんどくせー』ってボヤきつつ帰って行った顔が蘇って。
しょっちゅう電話で喧嘩してるみたいだから今日くらい仲良くしたらいいのに。
なんて内心ほくそ笑んでいると、遠くの方から足音が聞こえてきた。
段々と近づくその音に比例して膨らむ期待。
けれど、そこに現れた姿に一瞬にして期待の詰まった風船は萎んでいって。
げっ…マツジュン!
向こうも俺の存在に気付いたようでピクリと眉を動かした。
…また何か言われるじゃん。
アイツ俺に会う度に何か言わないと気が済まないみたいだから。
いや、居ないとこでも思いっきり貶されたけど。
荒々しく下駄箱を扱う音で威嚇でもしてるつもりかよ。
ふん、何でも言ってみろ。
今の俺はちょっとやそっとじゃ狼狽えねぇんだよ。
スマホに視線を落とすフリをしてヤツの動向を窺う。
スニーカーを突っかけて歩き出した足はやっぱり俺に向かっている。
来るなら来いっ…!
けれどゴクリと唾を飲み込んで構えたのは一瞬で。
無言のまま横を通り過ぎていった後、僅かに吹いた風に思わず顔を上げた。
振り返ればいつものように両手をポケットに突っ込んで歩いていく後ろ姿が目に入り。
……え、無視?