煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
余りに予想外の出来事に小さくなっていく背中をただぼんやりと見つめていると。
手の中で振動とともに軽い音を立てたスマホに肩を揺らした。
"かずくんごめん!すぐ行くから待ってて!"
珍しく絵文字も何もないそのメッセージに急いている気持ちが表れているようで。
"全然大丈夫。靴箱のとこで待ってるから。慌てて転んだりすんなよ"
つらつら文字を打って送信しようとした矢先、バタバタと聞こえてきた足音。
近付く音に顔を上げれば丁度のタイミングで廊下の角から人影が飛び出してきた。
「かずくんっ!ごめん待たせてっ!」
はぁはぁと上下させる肩と荒い息。
見上げた雅紀の顔は額にうっすら汗まで滲んでいる。
…ったく、そんなに必死に走って来なくてもいいのに。
そう思う反面、込み上げてくる嬉しさはどうやら顔に出てしまったみたいで。
「…え、どうしたの?俺の顔なんか変?」
「ふふ、違うよ。…んな慌てなくていいじゃん、別に」
「いやだってさ、」
と、続きを言いかけてなぜか噤んでしまった口元。
更には眉間に皺を寄せて考え込むように押し黙ってしまって。
明らかに様子がおかしい。
…雅紀?
「…どした?」
「かずくん…」
急に思い詰めたようなトーンの落ちた声色で真っ直ぐに見下ろされ。
座ったままの俺にそのまま覆い被さってきそうな圧を感じて思わずたじろいでしまう。
「かずくん」
「な…なに、」
「俺が好きなのはかずくんだけだから」
ストレートなその言葉は文字通り何の障害もなく俺の耳に届いた。
なっ…
真剣な瞳に圧されて顔に熱が集まっていくのが分かる。
「だから…かずくんも俺のことだけ見てて」
「っ…」
言われた瞬間、ぎゅうっと心臓を鷲掴みされたように動悸が始まって。
雅紀と正面から向き合うって覚悟を決めたけど。
いきなりこんなダイレクトに来るとは思わなかったし。
…つーか今更なんの宣言?
「かずくん、約束して。俺は絶対かずくんとずっと一緒にいるから」
「っ、ちょっ…」
ふいにしゃがみ込んだ雅紀に両手をぎゅっと握られて。
下から覗き込まれる瞳に耐えられずに。
謎のタイミングでの誓約にコクリと頷くしかなかった。