煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
それから夕飯の材料を買いにスーパーに寄って帰宅した俺たち。
リクエストした生姜焼きは雅紀の手料理で一番最初に食べたもので。
味はやっぱり申し分なく完璧。
包み隠さず"うまい"と伝えると心底嬉しそうな顔で目尻に皺を寄せた。
二人きりの生活が始まるなんて、と浮ついて落ち着かなかった気持ちはどこへやら。
他愛のない話をしながら囲む食卓は予想以上に心地良くて。
雅紀もすっかりいつも通りに戻っているようで、さっきの違和感は気のせいだったんだろうと得心がいった。
それにしてもいきなりあんなこと言われたらさ。
"ずっと一緒にいるから"なんて。
ドラマの観過ぎじゃねぇの?ってくらい臭いセリフ。
それを堂々と真正面から言われたらもう…
まるでプロポーズじゃん、って。
じわじわと込み上げる熱を誤魔化したくて、浴槽のお湯を掬ってパシャっと顔を撫でる。
もくもくと上がる湯気の中。
少しずつテンポを速くし始める脈拍を感じて。
これからのことを思うと色んな感情が複雑に絡み合うけれど。
ぐるぐると雁字搦めに巻き付いたそれは、結局のところ雅紀への想いでしかないから。
そしてそれは雅紀にだけ届けばいいだけの話。
そうだろ、雅紀。
…俺、ちゃんとお前に届けるから。
スゥと息を吸い込みザブンと勢い良く頭まで潜った。
要らない考えを押し流すように。
凝り固まった頭をリセットするように。
プハッと顔を出せば一瞬で開ける視界。
クリアに見えている内にこの目に雅紀を映し出したくて。
逸る胸を押さえつつ湯気でこもる浴室を出た。
***
視線はテレビ画面に向けていながらも意識はふわふわとどこかに浮いているような。
手元のコントローラーを機械的に動かしつつも、背後のドアが気になって仕方がない。
雅紀に風呂空いたよってさっき伝えに行ったら。
また真剣な顔で"後でかずくんの部屋行っていい?"って言われて。
その声と眼差しを思い出して無条件に早くなっていく鼓動。
こういう素直に反応する体も全部受け入れてやる。
自分に恥ずかしがってる場合じゃないんだから。
小さく息を吐いた時、トントンと階段を上がってくる音が聞こえてドキリと心臓が飛び上がった。