煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
その足音は俺の部屋の前で止まって。
向かいの雅紀の部屋のドアが開くのか、こっちのドアがノックされるのか。
ドキドキと高鳴る心臓はそのままに、背後へと意識を集中させる。
すると。
–––––コンコン
静かにノックの音が響いてひゅっと息を吸い込んだ。
「…はーい」
精一杯いつもの感じで返事をすればカチャっとドアが開く音。
画面から目を離さないまま気配だけを感じていると、ふいに頬に当たった刺激に声を上げてしまって。
「ひゃっ…」
「くふ、なにその声。可愛い」
左頬を押さえて振り返れば、ニコニコしながら汗の掻いたペットボトルを目の前にかざす雅紀。
予想だにしなかったいたずらに自分でもびっくりする程ヘンな声が出てしまった。
「なっ、やめろよ急にっ…」
「くふふ、ごめーん」
笑いながら"はい"と差し出してきたボトルを受け取って。
すぐ隣に腰を下ろした雅紀を盗み見しつつ、プシュッと音を立ててキャップを開ける。
ゴクゴクと喉を動かす様に気を取られそうになるのを何とか誤魔化して。
横で大げさにリアクションをするのに軽くツッコんで気を落ち着かせた。
「ねぇ俺もこれやりたい」
「え?あぁ…うん、いいよ」
そしていつもの様に一緒にゲームをする流れになったけれど。
なんか…なんかさ。
こんな感じでソッチの方向に持っていけんのかなって。
だって至っていつも通り。
いつもの様に俺がゲームに勝って悔しがる雅紀を見てバカにするってパターン。
こんなおちゃらけムードで大丈夫?
こっからどうやってそういう雰囲気に持っていけばいいのか全然分かんないんだけど、俺。
肝心なことを忘れていた気がする。
想いばかりがあっても勢い任せなんて柄じゃない。
況してやキッカケ作りなんてやったこともない。
ここに来てまさかこんな壁にぶち当たるなんて。
「うわぁ~また負けた!かずくん強すぎ!」
画面のキャラクターと同じように後ろにバタンと転がる仕草。
投げ出したコントローラーがフローリングにぶつかる音と共に"はぁ~"と長い溜息が聞こえた。