煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
「実はさ…」
ぎゅうっと力の込められた腕と声色が、これから雅紀が言おうとしていることの重さを物語るようで。
なぜか直感的に好くない内容だと察した脳ミソが昂りかけた体を抑制する。
逃げ出したいとさえ思うのにがっちりとホールドされた上体はビクともしない。
なに…?
なにを言おうとして…
「今日ね、松潤から好きだって言われて…」
「っ…!」
俺の直感は見事に的中した。
小さく呟いたその声が鼓膜を震わせる。
何度となく俺の心に土足で立ち入ってきたアイツ。
その度に踏み荒らされてはなんとか自力で再生できていたけれど。
とうとう立入禁止領域にまで侵入してきやがった。
「俺かずくんには隠し事したくないからさ…こういうこと聞くの嫌だと思うけど、」
「いやだ」
「え?」
静かに続ける雅紀を制した声色は自分でも引くくらい抑揚がなく。
せり上がってくる憎悪のカタマリは、少しでも口を開けば破裂しそうでぎゅっと唇を噛んだ。
アイツ…
何言ってくれてんだよ…
「…かずくん?」
「…やだ」
俺の雅紀にっ…!
「かずく、」
「やめろってば!」
堪え切れなくなり衝動のままにその腕から飛び出して。
くるりと振り返った先には驚いて見上げる雅紀の顔。
期待に渦巻かれていた体とワケの分からない感情でパンクしそうな頭が。
こうして立っていてもどこか宙に浮いているように錯覚させる。
だからもうこれ以上余計なことは何も考えられなくて。
「っ!かずく…」
「やだって…」
気が付いたらベッドに腰掛ける雅紀に跨るように抱き着いていた。
ぎゅうっとしがみ付けば熱い体温が直に伝わってくる。
今唯一感じられるのはただそれだけで。
こんなに感情の波が激しくなるのは初めてだった。
自分でも怖くなるくらいの情緒不安定状態。
雅紀のことになると自分が自分で居られなくなる。
みっともないくらい独占欲が強くて嫉妬深くて。
これが…本当の俺なんだ。
「…そんな話聞きたくない」
「ぁ…ごめん。でもね、俺ちゃんと言ったから!」
雅紀を責めたつもりじゃないのに慌てたように背中を撫でられて。
「かずくんは俺の大切な人だって…そう言ったから」