煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
軽い挨拶のようなそれに驚きを隠せない。
今までおはようのキスなんてされたことなかったのに。
一夜にしてこんな雰囲気になっちゃったってことはやっぱり…?
「さ、食べよ!かずくんトーストはジャムにする?バター?」
テーブルに連れて来られたはいいものの頭の中は大混乱で。
頼りにならない記憶と雅紀の態度から必死に紐解こうとするけれど。
感覚的に身に覚えのないことを肯定する気にはどうしてもなれなくて。
「…かずくん?」
こんなの恋人失格だって思うけど。
でもこういうことはちゃんとハッキリさせとかないと!
「雅紀っ…」
食パン片手にこちらを窺う瞳とぶつかる。
曇りのないその瞳をまっすぐに見つめて意を決した。
「あの…昨日って、俺…」
「……」
「ごめん、俺ちゃんと覚えてなくて…」
どう言ったら気を悪くせずに伝わるかと言葉を探すので精一杯。
目も完全に泳いじゃってるのを自覚しつつ。
「えっと…俺たち…昨日、」
「待って」
続けようとした言葉は雅紀によって遮られ、そして目尻に皺を寄せた満面の笑みで再び口を開いた。
「大丈夫だよかずくん。俺作戦考えたから」
「……へ?」
「今日は最後までシようね」
「…っ!」
その笑顔とフレーズとのギャップがありすぎて思わず言葉に詰まる。
と同時に"最後までシてない"という真実を突き付けられ、半信半疑だった記憶にケリがついた。
多分そうとは思ったけど…ハッキリ分かるとやっぱヘコむ。
…いやそれはともかく。
「…ねぇ雅紀」
「うん?」
ご機嫌な顔で食パンにバターを塗る手元を見つめつつ小さく問いかける。
「…作戦って何?」
「え、作戦?いやかずくんまた寝ちゃうかもしんないからさ」
「えっ、俺寝たの…!?」
「あ、やっぱ覚えてないんだ。くふ、イったら気持ち良さそうに寝ちゃってたよ」
「なっ…!」
"可愛かったなぁ"なんて宙を見上げ目尻を下げる顔。
「だからね、…あっ、作戦はまだナイショ」
くふふっと楽しそうに笑う雅紀に色んな感情が複雑に混ざり合う。
申し訳ないやら情けないやら恥ずかしいやら。
自分だけイって寝たって…
俺マジで最低じゃん!
結局、雅紀が焼いてくれたトーストは一口齧るので精一杯だった。