煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
翔ちゃんが静かにそう告げると、それまで下を向いていたトウマがいきなり顔をパッと上げて。
「分かってます、全部。潤からも聞いたんで…」
その顔は無理矢理貼り付けたと分かるほどのいびつな笑顔だった。
「無理だった、って…フラれたって言ってました」
「…え?アイツ告ったの?」
トウマの言葉に翔ちゃんが驚いて俺を見た。
なんとも言えない顔で見つめ返した俺の意図を察してくれたのか、はぁと溜め息をついて髪をガシガシと掻く翔ちゃん。
「多分これで諦めるんじゃないかな…潤。正式にフラれるまで俺の言うこと全然聞かなかったっすけど」
苦笑しつつ視線を落としてぽつぽつと続ける言葉に耳を傾ける。
「俺、潤とは中学からの付き合いで。昔っからあんなだから周りから勘違いされることばっかだったんすよ」
「……」
「不器用で人付き合いも苦手で。でも意外とアツいとこもあって曲がったことはほんと大嫌いで…」
確かめるように頷きながら言葉を繋ぐ口振り。
「なんかほっとけないんすよね、潤って。
だから…アイツのやりたいことは誰よりも俺が応援してやるって決めたんです」
少しの間の後、またパッと上げられた顔。
「俺が居てやんないとダメなんすよ、アイツ。
ほんと困ったやつでしょ」
きっとトウマの本当の笑顔はこれじゃない。
そう言い切れるほどの付き合いではないけれど、なぜだか直感的にそう思った。
「ってことで…お兄さん」
「えっ、あ…はい」
「今まで潤がご迷惑をおかけしました。これからはどうぞ相葉とお幸せに!」
深く一礼をしてニッと口角を上げたトウマは、また来た方向へと走り去っていった。
するとすぐに翔ちゃんが振り返って。
「お前さぁ、知ってたワケ?告ったの」
「あ、えーっと…」
「何で言わねぇのよ!俺だけアツくなってバカみたいじゃねーか!」
「っ、だって言ったら翔ちゃん何するか分かんないでしょーよ!」
売り言葉に買い言葉。
結局この時間は何だったんだって話になって。
「今度絶対カツ丼奢れよ!大盛な!」
そう息巻いて俺が宣戦布告されてしまったけれど。
もうマツジュンのことで頭を悩ませることはきっとないだろうと。
そうであってほしいと、トウマの言葉を信じるしかなかった。