煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
バイト終わり、今日も時間ぴったりに迎えに来てくれた雅紀。
いつもは駅なのに何故か今日はコンビニまで来ていて驚いた。
「ねぇかずくん」
「ん?」
「俺もあそこでバイトしよっかな」
「えっ?」
駅までの道すがら、ぽつりそう溢した横顔がこちらに振り向く。
「だって一回帰るよりそっちのが良くない?」
「いやそりゃそうだけど…」
「そしたらずっと一緒に居れるじゃん」
ね?って屈託のない笑顔を向けられ上手くリアクション出来ず。
「…え、嫌?」
「っ、ちがっ…そんなんじゃなくて、」
「くふふ、ウソウソ。冗談」
そう言って可笑しそうに口角を上げる雅紀に完全にしてやられた感。
コイツの言うことにいちいち反応する俺も俺だけど。
本気なのか冗談なのか分かんないんだよ、マジで。
熱が上昇しかけた頬をごしごしと擦ればまた笑い声が漏れてくる。
チラと目を上げたら、ずっと見つめられていたようですぐに視線が合わさった。
「かずくんてさ、拗ねると唇とんがるよね」
「はっ?とんがってねーし」
「ほら今!くふっ、これ可愛い」
「っ…」
ちょんと人差し指で唇を触られ恥ずかしくて距離を取ろうとした時。
「あぶなっ…!」
「っ!」
突然ぐいっと引き寄せられた体。
肩を抱かれたまま、真横を通り過ぎた自転車が遠ざかってゆくのを目で追うしかなく。
「なんだあれ…あっぶな。かずくん大丈夫?」
「……」
雅紀の胸に収まった状態で耳元に心配そうな声でそう囁かれて。
至近距離で見上げた顔にあろうことか完全に捕らわれてしまった。
そして瞬時に脳裏を過ぎったのが今夜のコト。
っ…
どくどくと血液が一気に循環していく感覚。
更には密着した雅紀の体温も伝染してくるかのようで。
ヤバい。
ノーガードでこんな状態はヤバっ…
「…ねぇ何考えてんの?」
「っ…」
静かに口を開いた雅紀が熱い視線を送ってくる。
「そんな顔されたらさ…俺も思い出しちゃうよ、昨日のコト」
「なっ、に…」
「…ダメだ、早く帰ろ」
「ちょっ…」
さっきまでの緩んだ顔は消え去り、どこか切羽詰まったような瞳に圧されるがまま。
ぐいぐい引っ張られながら駅の改札をくぐっていった。