煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
電車内でもやけに口数が少なかった雅紀は。
家に辿り着くなり俺の手を取って廊下をすたすたと進んでいき。
そして立ち止まったのは風呂場の前。
えっ…?
クエスチョンマークが浮かんですぐ、くるりと俺に振り向いた雅紀に両肩をがっしり掴まれて。
「かずくん、俺…白状する」
「…え?」
「作戦は内緒だったけど…もう言っていい?」
黒目がちな瞳が熱を持って揺れているのが分かる。
その瞳に見つめられ、更にしっかりと肩をホールドされて身動きが取れぬまま。
「俺も一緒に風呂入らせて」
「っ…!」
って…いや、この場所に連れて来られたんだからそりゃそうかって話なんだけど。
もしかしてって思わなくもないんだけど。
でもいきなりそんな…
昨日の夜のコトが脳裏を駆け巡る。
俺にとっては自分の恥ずかしい部分をほぼ晒け出してしまったのは間違いなくて。
だから一歩先に進んで一緒に風呂に入るってのも別におかしいことじゃない。
…んだけどさ。
やっぱりまだ真っ裸を晒すって言うのはどうも恥ずかしくて。
ぐるぐると頭の中で葛藤していると窺うような声色が耳に届いた。
「…お風呂だったら眠くなんないよね?」
「…は?」
相変わらずド真面目な顔でそう訊いてくる雅紀。
え、なにそういう理由?
作戦ってそのこと…?
ちょっと…なんか俺一人で恥ずかしがってバカみたいじゃん!
「寝るワケねぇだろっ!」
「あっ、だよね?じゃあこの作戦にする!」
意図が分かって反論したのにそれ以上の勢いで返され。
どこか吹っ切れたようにいつもの笑顔に戻ったと思ったら、肩を掴んでいた手にぐっと力が入り。
そのまま傾けられた顔が近付いてきて。
ちゅっ…と重なった唇はすぐに離れていった。
「ただいまのチュー。忘れてたね」
そう言って至近距離で微笑む雅紀に、またもやしてやられた感が否めない。
…つーかいつからそんなルール決まったんだよ!
あーもう、顔あっつ…
「よし、じゃあ入ろ」
「えっ、いや待って!夕飯は?」
「ご飯は後で。お腹いっぱいになったら眠くなっちゃうし」
言いながら脱衣所のドアを開ける雅紀はどこか楽しそうにも見える。