煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
バタン、と閉められた脱衣所のドア。
親父と風呂に入っていたのは小学生までだったから、もうここ何年も誰かと一緒に入るなんてしていない。
いつもは流れ作業的に済ますこの時間に、どれ程の緊張がこれから訪れるのだろうか。
バイト帰りのブレザーのままの俺。
かたや雅紀はラフなパーカーとジーンズ。
余りにトンデモ展開でこんなちぐはぐな状況につっこむ余裕なんてこれっぽっちもなく。
「あれ〜…おっかしいな…」
ごそごそとタオルの棚を探っていた後姿が小首を傾げながら呟いたのに目を遣れば。
同時に振り返ってバチっと合わさった視線にドキリと胸が鳴り。
「ごめん忘れ物しちゃった。すぐ戻るから待ってて!」
"絶対待っててよ!"と、再度そう念押しするとバタバタと忙しなく出ていった。
取り残された狭い空間で、これから起こることに段々と現実味を帯び始めたのを自覚する。
なけなしの覚悟は一応だけどしたつもり。
昨日だって半ば勢いのままになだれ込んだんだ。
その割には大失態を犯してしまったけれど。
寝落ちてしまったとは言えそれまでの記憶はぼんやりと体が覚えていて。
久し振りの感覚に歯止めが利かなくてあっけなくイってしまったのは認める。
でも、てことは…雅紀には見られちゃったんだ。
俺のコレも。
ついでにイクとこも。
改めてそう思うと火が点いたように顔が熱くなって。
や、やっぱ…
恥ずかしすぎるっ…!
なけなしの覚悟なんて所詮あってないようなもの。
こんな土壇場になって一気に防御反応が出てしまうなんて。
雅紀…ごめんっ…
くるりとドアの方に振り返ったのとそのドアが開いたのがほぼ同時。
「うわっ…!」
勢い良く入ってきた雅紀に抱き留められてしまい。
「くふ…も~かずくんってば待てなかったの?」
至近距離で見上げたその顔は嬉しそうに緩んでいて。