煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
そのままぎゅうっと抱き締められた耳元に。
「…俺ももう待てないよ」
「っ…」
普段あまり聞くことのない低い囁きが耳を擽り、どくんと心臓が波打った。
確かめるようにすぅっと鼻から空気を吸いながら更に抱き締める力が強くなり。
どくどくと血液が一点に送られていく。
理性より先に反応する体は一番の正直者で。
…もうどうしたって逃げらんない。
やっぱもう…覚悟、決めなきゃ。
「…続きはこれからね」
ぽつり間近で呟かれた声は掠れていて。
離れた先の雅紀の瞳は明らかにさっきとは違っている。
「さ、行こ」
言いながらポイポイとパーカーとジーンズを脱ぎ捨て。
「ほら、かずくんも早く」
「えっ、わっ…」
抵抗する間もなくブレザーを脱がされ、更にカッターシャツを首からすっぽ抜かれ。
ベルトに手が掛かろうとしたから慌てて阻止した。
「いいって自分で脱ぐからっ!」
「えっ、じゃあ…」
「っ、先入ってろよ!」
そのままジッと俺を見ていた雅紀の背中を押して浴室へと送り込んだ。
もうさぁ…なんであいつ真っ裸なのにあんなにフツーなの?
脱いでないこっちが恥ずかしくなるっつーの!
しっかりと直視していないとはいえ見えてしまったのは確か。
こうやって一つ一つにブレーキをかけてたら全然前に進みやしない。
分かってんだよ。
分かってんの、もう。
……よし。
行け、俺!
ベルトに掛けていた手を素早く動かして、ズボンと一緒に弱気な思考も脱ぎ捨てた。
***
もくもくと蒸気が立ち込める浴室内。
すでに汗を流し終えた雅紀はまだ半分ほどしか溜まっていない湯船に浸かっていて。
しかも何でか知らないけど乳白色のお湯だし。
これってもしかして雅紀なりの配慮?
俺が恥ずかしくないように、って?
そんなことを考えていると目が合い、一旦チラッと目線が下に行きすぐに戻された。
「早くこっちおいで」
明らかに今見ただろって突っ込みたいところだけど、やけに優しいその眼差しに何も言えずに。
シャワーを頭からかけつつもひしひしと感じる視線。
その居心地の悪さも手伝ってか、いつもの流れ作業もよりハイスピードで終わってしまった。