煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
"じゃあ準備しよっか"と言われてドキリと心臓が波打つ。
ギリギリでおあずけを喰らった俺のは勿論そのままの状態で。
ざぶんと腰を上げた雅紀が手を伸ばして掴み取った容器に目がいった。
洗顔フォームかなにかと思っていたそれはジェルローションだったようで。
「よし…これがあれば大丈夫だからね」
どこからそんな自信がくるのかと思う程の笑顔でその容器を目の前に掲げられた。
…ついにくるんだ、この時が。
ネットでは色々調べてきたからある程度の情報は入ってるつもりだけど。
でもいざその時を迎えるとなるとやっぱり怖いというか何というか…
さっきの昂りとは違うドキドキ感が胸を覆う。
おかげでみるみる内に元通りになっていく俺自身。
「じゃあえっと…こうしよっか」
ふいに雅紀がそう呟いたかと思ったら、後ろから両脇を持ち上げられてざぶんとお湯が波打った。
「うわっ!」
「そんでこっち向いて」
そのままぐるり方向転換し雅紀の太腿に跨るような体勢になり。
「なっ…」
「はい、膝立ちして」
次々に出る指示に言われるがままな俺。
目線の下にはジェルのキャップを開ける伏せた瞳。
白いお湯の中ではきっと俺のと雅紀のが仲良く寄り添ってる。
待って…こんな向かい合って準備するの!?
え、これでどうやって…
ただただ雅紀の動向を目で追っていると、指にジェルをたっぷりと纏わせてこちらを見上げた瞳とぶつかった。
その瞳は今までとは違いやけに真剣な色を帯びていて。
「…かずくん、俺がんばるから。痛くしないようにするから」
「…ぇ」
「でも、初めてだから…下手くそだったらごめん」
「っ…」
ゆらゆらと揺れる黒目がちな瞳に見上げられ。
恥ずかしくなるくらい直球で、苦しくなるくらい優しさで溢れた雅紀のその言葉に。
不覚にも涙が込み上げそうになった。
ずるいって急に。
そんな顔でそんなこと言われたらもう…
逸らすことなく真っ直ぐに見つめてくる瞳を見据えて。
初めてで怖いのは俺だけじゃない。
…雅紀だっておんなじなんだから。
「…大丈夫だよ」
「え?」
「…お前とだから大丈夫」
大丈夫。
雅紀となら俺…頑張れる気がする。
…だから。
「…よろしく、雅紀」