煩悩ラプソディ
第10章 星に願いを/AN
「ね、きれいでしょ?」
ゆっくりと静かに立ち上がって俺の横に並んだ。
「すげー…」
闇とも言い難い、それでいて派手な飾りを纏っているわけでもなく。
その優しくて広大な星空に吸い込まれそうな錯覚に陥った。
暫く見惚れていたが、ひんやりと肌にしみる空気が一瞬震えた様な気がしてふと隣を見遣る。
その横顔は無言のまま、瞬きをすることなく上空を見つめていて。
もう一度視線を上に戻そうとした時、ふいににのが口を開いた。
「…この星ってさ、どこでも見えてんのかな」
視界に星空を映しながら、瞼を一度だけ落としてそう言うにの。
唐突なその問いに疑問符が言葉にならず、そのまま見つめる。
「どこにいてもさ、おんなじ空なのかなって」
言い終えると、こちらを向いて表情を変えることなく俺の言葉を待つ。
なんだか神妙な雰囲気に気後れしそうになるが、余りにも真剣に伝えてくる瞳について言葉が出る。
「…や、どこでもってわけじゃないんじゃない?
やっぱ場所にもよるし」
さしておちゃらけて否定するような空気でもなかったので、素直に思ったことをそのまま伝えると。
閉じていた口を少し緩ませ「そっか」と言って笑った。
なんの疑いも反論もなく頷いたにのに肩透かしを食らった気がして、眉をひそめる。
「なによ、普通でしょ?」
「ん…そうだね」
静寂に息づく微かな笑い声に、間近の街灯に照らされて伸びる二つの影が小さく揺れた。