煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
急いで出たばっかりにマフラーを忘れてしまっていて。
電車内はまだ良かったものの駅を出たらさすがに寒くて堪らない。
両手を擦り合わせて首を竦めながら歩いていると、急に背後から衝撃が加わった。
「うわっ!」
「よっ、雅紀。お兄様はどした?」
振り向けばマフラーぐるぐる巻きで完全防備な櫻井先輩が肩をガッシリと抱いてきて。
「はよざいます。えっと…」
「なに?風邪でも引いた?」
「いや風邪じゃないんですけど…」
「あれか、お腹ピーピーってやつ?」
「いやそういうんじゃなくて…」
「あ?」
肩を抱かれたまま質問攻めに遭いどうしようかと口籠っていたら。
ジッと覗き込まれる視線に気付いて。
「っ…なんすか」
「…ふふっ。ふーん。なーるほどな」
「な…なん、ですか…」
「あ、ここキスマーク」
「えっ!」
ちょんと首筋をつつかれて咄嗟に手で隠してしまい。
「ぶはははは!嘘に決まってんだろ!つーかマジかよ昨日だったのかよ!」
「えっ!あっ、いやそのっ、」
「いいいい!皆まで言うな!なんだ昨日かよ~アイツ鎌掛けやがって」
何故だか楽しそうな櫻井先輩の顔にかずくんの言葉が蘇る。
"翔ちゃんに何言われるか分かんねぇし"
…やっば。
完全にバレちゃった…
「そうかそうか、それはさぞかし安静にしとかねぇとな。んじゃ後でLINE送っといてやろ」
「ちょ、待って!ストップ!」
「あ?なんだよ」
「いやあの…多分かずくん寝てるから気付かないと思うし…あ、それに!朝見たら充電無くなってたような気が…」
「知らねぇよそんなの。一番の親友が心配してやってんだぜ?だいじょーぶだって、俺だってデリカシーあんだからさ」
言いながらニヤニヤしてスマホを取り出す仕草。
いや全然信用できないんですけど…!
うわ~かずくんごめんっ!
ご機嫌な先輩に肩を抱かれつつ朝からげんなり。
溜息まで出そうなほど項垂れていると、校門の前に見知った姿を見つけて。
あれ…?
「生田、おはよ」
「あぁ、はよ。えっと…あの、ちょっと相談があるんですけど」
「は?俺?」
笑顔で俺に挨拶をくれた後、生田は遠慮がちに櫻井先輩にそう問い掛けた。