煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
ゆらゆらと揺れる薄茶の瞳に捕らわれたまま動けないでいると。
急に手首をぐいっと掴まれて。
衝動的に引き寄せられた体はかずくんに傾き。
「ンっ…」
しっとりと唇が重なってすぐに離された。
そして。
「ただいまって…するんじゃないの?」
「っ…」
そう小さく呟きながら至近距離で見つめられ心臓が早鐘を打つ。
ちょっと…
まさかかずくんから"ただいまのキス"をねだられるなんて…!
も~なんでそんな可愛いことすんだよっ!
「…ごめん忘れてた。忘れてたから俺からもっかいしていい?」
「や、一回でい、ンっ…」
赤くなって拒否しようとした顔をがっちり固定してその唇に吸い付いた。
ちゅ、ちゅと何度も繰り返しキスをして。
「もっ…ン、はぁっ…」
暖気と相まってかずくんの体からも篭った熱が伝わってくる。
おまけに俺の下半身も緩く反応を示しだした。
腰痛めてるけど…
ちょっといちゃいちゃするくらいいいよね?
「っ、んんっ!」
「かずくんっ」
そのままソファに横たわるかずくんに跨るように覆い被されば、ぐっと瞳に力を入れて見上げてきて。
「…昨日の今日だけど」
「うん、でも我慢できなくなっちゃった俺」
「変態かよバカ!重いっ降りろっ!」
「やだやだ~かずく~ん」
全く痛くもないグーパンチを背中に受けつつ首筋へ顔を埋めた時。
"ピコン"と軽快な音がローテーブルから聞こえ、ハタと動きを止めた。
その音は立て続けに響き、どう考えてもスタンプか何かを連打しているようにしか聞こえない。
「…もっ、どけ!ちょ、それ取って!」
ぐいーっと俺の胸を押して起き上がったかずくんは届かないテーブルに手を伸ばしていて。
渋々スマホを渡すと"なんだ翔ちゃんか"とトーンの下がった声にハッとした。
もしや先輩…余計なことっ…
「ちょっと待った!」
「え?」
手渡したはずのスマホを咄嗟に奪い返してしまった俺。
「なに?返せよそれ」
「いやっ、その…」
「いいから返せってば!」
「あっ…」
さっきの可愛らしさはどこへやらで、一気に怪訝な表情になってしまった瞳の先をドキドキしながら見つめる。
「……」
「……」
無言で画面を凝視するその姿にごくりと固唾を呑んだ。