煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
歯痒さと悔しさと情けなさ。
言葉を噛み締めるように吐き出すトウマの表情からはそんな感情が見え隠れしていて。
それから…その感情の本質はきっと。
「だからアイツの為にしてやれることって言ったら…こんなことしか思い付かなくて」
段々と震える声。
強く握られる拳。
「潤にもお兄さんにも嫌な思いさせて…ほんと俺…すみませんでしたっ…」
言いながら勢い良く頭を下げたトウマ。
「…ごめんニノ。俺も悪かった。すまん」
トウマに釣られるように隣の翔ちゃんもペコリと頭を下げた。
そんな異様な光景に周囲の客の視線が一気に集まって。
「ちょっと…いいってそんなのっ」
慌てて立ち上がって二人の肩を叩く。
「おいトウマ、顔上げろってば!」
「……」
項垂れたように下げていたトウマの顔は今にも泣きそうに歪んでいた。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
なんでこんなに優しいヤツがこんなに悲しい顔しなきゃいけないの。
お前が傷付く必要なんかないのに。
このままじゃだめじゃん、絶対。
全然伝わってないじゃん、アイツに。
「…謝るのは俺にじゃないと思うよ」
「……ぇ」
「言わなきゃ、ちゃんと…ほんとのこと」
「……」
「怖いかもしんないけど…お前なら大丈夫だって」
「っ…」
「ね?」
俯き気味な顔を覗き込んで腕をポンと叩けば。
「…はい」
きゅっと口を結んで力が宿ったように大きな瞳を輝かせて。
そしてぺこりと一礼をするとマツジュンと雅紀が歩いていった方向に駆け出した。
すぐに小さくなっていく背中を見送って溜息をひとつ。
なんで俺がこんなことまで…
あ。
ちらり目を遣った方向。
未だピンときていないようなマヌケ面にも溜息をひとつ。
「…なぁトウマってさぁ、」
「あのさ、とりあえずあったかい飲みモン買ってきて」
「はっ?」
「は?じゃねぇのよ。これくらいで済むだけでもありがたく思えバーカ」
「んなっ…」
「ほら行け、はい!」
ぐいぐいと翔ちゃんの背中を押して送り出す。
とぼとぼと歩いて行く後ろ姿を確認して三回目の溜息。
…なにやってんだろ俺。
誰も居なくなったベンチに一人、頭上から沸き上がる歓声を聞きながら両手に息を吹きかけた。