煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
冷たいベンチに座っているのに耐えられなくなりトイレを探して彷徨っていると。
メインのアトラクションがあるエリアから少し離れた場所に目的のマークを見つけた。
寒さも手伝って肩を竦めながら早足で駆け込む。
誰も居ないトイレ内はシンと静まり返り、ここが遊園地だということを忘れるくらい別世界に思えた。
用を足して冷たい水で手を洗う。
指先がヒリヒリする程の冷たさ。
思わず顰めた顔が鏡に映り、またふぅと息を吐く。
今朝の浮ついた気分はどこへやら。
まさかこんなことになるなんて想像もしてなかった。
せっかく雅紀に選んでもらったセーターとジーンズ。
雅紀はこういうのが好きなんだ、って。
そんな些細なことを知れただけで浮かれまくってさ。
なんか俺…一人でバカみたい。
なんだよ。
なんで横に居ないんだよ、雅紀。
放っておくと尖っていく唇が目に入り。
多少のイラつきは拭えないままトイレを出た時。
向こうの方から三人組の男が笑いながら歩いてきた。
見た感じ大学生っぽいチャラチャラした頭悪そうな集団。
こんな奴らも遊園地なんて来るんだ、なんて思いながら横を通り過ぎようとしたら。
何の前触れもなくグイッと腕を引っ張られ。
っ…!?
突然のことに驚いて声も出せずに振り向けば、その内の一人が俺の腕をしっかりと掴んでいた。
「ねぇちょっと聞いていい?」
「…ぇ」
「あのさぁ、売店どこにあるか知らない?」
一際頭の悪そうなソイツはニヤニヤした顔でそう聞いてきて。
「いや…分からないです、すみません…」
「え~知らないの?じゃあ一緒に探そうよ」
「え?いや、うわっ!」
断ったら離すどころか物凄い力で引っ張られて。
「なんかさぁ~ボク近くで見たら超可愛いね」
「ちょっ、離せっ…」
「え~離したくなーい」
全力で抵抗するけど嘘みたいに敵わなくてただただ引きずられていく。
こんな奴らに絡まれるなんて最悪っ…!
なんで俺がこんな目にっ…
下品な笑い声が耳に纏わりつく。
瞬間的に忘れかけていた電車での光景がフラッシュバックされて。
誰か…
雅紀っ…
瞬間、引きずられていた足取りがピタッと止んで。
密着していた男の体が後ろに吹っ飛んだ。