煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
「…じゃあな」
「えっ、ちょっと待てよっ!ぁ…トウマは?トウマとは話せたの?」
「なにを」
「えっ?あ…だから…」
何て言ったらいいか言い淀んでいた矢先、歩みを止めたマツジュンがふいにこちらを振り返って。
「アンタさ、下の名前なに?」
「え…和也だけど…」
急な問い掛けにただ素直に名前を伝えれば。
「…じゃまたな、カズ」
僅かに口角を上げてそう言うと、ポケットに手を突っ込んだまま歩き出した。
突然のことに一瞬何が起こったか分からなかったけど。
「…っ、おい!俺三年だぞ!呼び捨てすんなっ!」
後ろ姿にそう叫んでもまるで聞こえていないかのようにそのまま歩いて行った。
思えばマツジュンの笑った顔なんて初めて見た気がする。
いつだって俺に突っかかって目の敵にされてきたから。
今まで不本意ながらライバルだって思ってたけど…
多分もう、そんなことを思う必要はないみたい。
アイツだってもういい加減気付くはず。
近くに居る大切な存在に。
つーか…俺に言う前にお前も自覚しろっつーの。
そう心の中で悪態を吐いているとジーンズの後ろポケットがブーっと震えて。
取り出した画面にはおびただしい数のLINEメッセージと雅紀からの着信が。
「…もしも」
『かずくんっ!どこに居るの!』
出た瞬間響いたその声に思わずスマホを耳から離した。
「ちょっとトイレ行ってただけだってば」
『どこ?どこのトイレ?そっち行くから!』
「いいいい、もう戻ってくるから!いやつーかさ、お前も俺のこと置いてどっか行ったじゃん」
『あっ…それはごめん…あと、今日のことほんとにごめんね?せっかくのデートだったのに』
電話の向こうで急にトーンダウンした声に雅紀の反省の色が窺えて。
その声から表情まで浮かんできてちょっとしたイタズラ心が芽生えた。