煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
「…ほんとだよ。ちゃんとしたデート初めてだったのに。俺すっごい楽しみにしてたのに」
『ごめん…かずくん…』
「もういいよ。もう俺帰る。じゃあね」
『えっ、かずく』
一方的に切った電話の向こうで雅紀があわあわしている顔が浮かぶ。
ふん、このくらいしたっていいじゃん。
俺マジで凹んだんだからな。
心なしか軽くなった足取りで元の場所へと歩いていた時、ふと耳に入ってきた園内放送。
…ん?
"迷子のお知らせ"で人知れず自分の名前が呼ばれているのに気付き。
はっ?ウソでしょ?
……あんのバカっ!!
雅紀に電話を掛けつつインフォメーションセンターへ猛ダッシュした。
***
結局。
あの後は真冬の寒さに耐え切れずに遊園地は早々に切り上げ。
今回の最大の戦犯とも言える翔ちゃんの奢りでファミレスでランチをし。
去年の文化祭以来のボウリングを三人で楽しんだ。
「じゃあ明日な」
「うん、明日ジュース奢りね」
「おいまだかよ!重いな俺の罪!」
「くは。んじゃね、ばいばい」
ボウリング場の前で雅紀と一緒に翔ちゃんを見送って駅までの道を歩く。
すっかり日も暮れた空には昼間の天気のおかげか星が無数に輝いていて。
短い繁華街を抜ければ街灯がぽつぽつと灯る帰り道。
より一層暗闇と静寂に包まれた空間に、二人分の白い息が昇っていく。
さっきまで翔ちゃんの話とか他愛のない話をしていたのに。
急に黙り込んでしまった雅紀に変に緊張してしまう。
すると、ふいに右手の指先に雅紀の指が触れて。
そのままきゅっと握られた手はダウンジャケットのポケットの中へ。
思わず雅紀を見ればニコッと笑ってマフラーに口元を埋めた。
こんな突然のことにすぐ反応してしまう単純な体。
同じようにマフラーに鼻まで埋め大きく息を吸ってドキドキを誤魔化す。
「…今日さ」
しっかりと握られた右手に意識を持っていかれていたら、ふと小さな呟きが聞こえた。
「俺…ひどいことしちゃったよね。松潤にも、かずくんにも」
そっと向けられた瞳は暗闇のせいか翳っているようにも見えて。