煩悩ラプソディ
第10章 星に願いを/AN
「にの…」
ピッ…ピッ…
心拍数を示す機械の音がやけに大きく聞こえてくる。
ピッ…ピッ…
辛うじてうっすら開いているにのの目は、逸れることなくこちらを見続けていて。
口につけられた酸素マスク越しに覗く唇は、時折かすかに何か言いたげに動いている。
ピッ…ピッ…ピッ…
にの…なんて言ってんの?
ねぇにの…どうして?
ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…
音の間隔が狭くなり、モニターの波形が不規則に上下しだす。
それがどういうことなのか、分かっていた。
頭では分かっていたけど、分かりたくなかった。
どういうことなのか分かっているからこそ、その事実が受け止められなかった。
受け止めたくなかった。
ピッ_ピッ_ピッ_ピッ…
急に早まる音と、アラーム音。
「っ、にのぉ!くそっ…!」
目の前のガラスに拳をドンっと叩きつけて、縋るようにへばりつく。
ピッ_ピッ_ピッ_ピッ_ピッ..
その時。
こちらを見続けていた虚ろなにのの目から、涙がぽろっとこぼれ落ちた。
長い睫毛が、ゆっくり閉じていく。
いやだ…
待ってっ!
待っ…
ピーーーーーーーー..
直線が、横にスクロールを始める。
耳に残る、途切れることのない機械音。
…嘘だ。
冗談でしょ?
起き上がって笑ってみせてよ。
驚かないって。
ねぇ…
にの、嘘だよね?
にのが…
死んだなんてーーー。