例えばこんな日常
第12章 まさかの大誤算/AN
こうして強制可決された、俺の役作り問題。
にのを相手に役作り、すなわちにのを好きにならないといけないなんて。
そんなの絶対あり得ない。
いや、あっちゃいけない。
そんなことが頭の中を支配して、その後の収録中も無駄ににのを意識してしまうハメになり。
いつもならごく自然に目が合うのに、にのがこちらに視線を寄越そうとするとつい逸らしてしまうことが何度かあって。
そればかりか、隣同士に座る場面では一言も話しかけることができず。
こんなのどう考えたっておかしい。
あまりにもいつもの俺じゃなさすぎる。
収録を終えて楽屋に戻る途中の廊下で、今日の態度の反省点の多さに心底項垂れた。
なにやってんの俺…
見えないように小さく溜息を吐いてから楽屋のドアを開けると、先に戻っていたにのが一瞬眉根を寄せてすぐにいつもの顔で口を開く。
「意識し過ぎなのよ。なんなの、さっきの」
ソファに沈んで、こちらを見上げながら口を尖らせて。
「うん、ごめん…なんかさぁ、ダメだね。意識しちゃうの」
「だからやだって言ったのよ。相葉さん絶対俺のこと気にするでしょって」
「うん…」
「目も合わさない話もしないしさ…なんかあったのかなって思うでしょ、観てる人はさ」
先ほどの収録を思い出し、にののご指摘の通りで何も言えなくなる。
「…とりあえず切り替えなさいよ。仕事なんだからさ、」
そんな優しい声で諭すように言うにのに、自分の不甲斐なさに段々と目の奥に熱く込み上げてきて。
やべ、泣きそう…
その涙を見られたくなくて、コーヒーを注ぎに行くフリをしてその場を離れる。
にのの言う通りだ。
ちゃんと、目の前の仕事に集中しなきゃダメだよ。
そう改心してぐっと眉根を寄せて涙を堪えると、にのの分のコーヒーも注いでソファに向かおうとした。
すると、カチャリと遠慮がちにドアが開き、顔を覗かせたのは翔ちゃんで。
「…入っていいっすか?」
半笑いのその顔の奥から、またもにやける松潤の顔がひょこっと現れた。
「もう始まってんのかと思ったわ」
「ふはは!さすがに楽屋はないだろー!」
がやがやと笑いながら入ってくる二人に続いて、リーダーもへらへらしながら入ってきた。