例えばこんな日常
第12章 まさかの大誤算/AN
自宅のソファで寛ぎながら、ビールとお気に入りのビスケットでちまちま晩酌をしつつ。
数日前、にのから役作りの相手役の承諾を得た後に気付いたことがあって。
今回のドラマの舞台は高校で、いわゆる『学園モノ』の類。
俺の役はその高校の教師で、とある男子生徒から想いを寄せられて段々と禁断の恋に発展していくという内容のものだ。
だからつまり…
この役作りは、にのも俺に好意を抱いて貰わないと成立し難いことになっている。
それをにのに伝えた時の明らかな怪訝な顔は、未だ鮮明に覚えていて。
だけど『なにそれ、俺発信なの?』とめんどくさそうに言いながらも、それを理由に断られることはなく。
むしろ、なんていうか…
それからのにのは、やたらと俺の近くに居ることが増えて。
楽屋や収録の合間とか、今までも特に気にすることなく自然に隣には居たような気もするんだけど。
意図的に俺の傍に居て、他愛もない話なんかをする時の表情が…
なんというか…いつもと違う気がして。
これってもしかして、俺の役作りに常に協力してくれてんのかなって。
俺に好意を抱く努力をにのからしてくれてるんじゃないかと、密かに思ったりして。
本人には確認してないけど、もしそうだとしたら本当にありがたいことだよね。
普段からそうやって気を遣って貰ってるんだから、俺もせっかくのその気持ちを無下になんてできないし。
俺も、にのを好きになる努力をしなきゃな、うん。
そう小さく意気込んでテーブルの上の台本に手を伸ばした時、すぐ側に置いていたスマホが軽い通知音を鳴らした。
台本と一緒に手に取り画面を確認すると、そこには『にの』の文字。
今しがたにのの事を考えていただけに多少驚きつつも、新着のそのメッセージをスワイプする。
『いま何してます?
家にいます?』
といういつも通りの短いメッセージ。
すぐに家に居ることを返信すれば、これまたすぐに既読がつき。
『ちょっと行っていい?』
という思いがけない返信が来た。
時間を見ると21時を回っていて。
今からうちに来るなんてどうしたんだろうと不思議に思いながらも、にのが来ることを断る理由なんてないからすぐにOKの返事をした。