例えばこんな日常
第12章 まさかの大誤算/AN
程なくしてやって来たにのは、至っていつもと変わらない感じで。
心許りらしいコンビニ袋に入ったビールを携えて、俺の後についてリビングに入ってきた。
「どうしたの?珍しいよね、こんな時間からは」
「…んー、ちょっと確認したいことあって、」
袋を受け取りながら問いかけると、キャップを脱いで髪を無造作にわしゃっと直す背中が小さくそう答えて。
ふと、手元の袋を見てはっとする。
「つぅかにの、飲めないよね?これ」
ビール缶を掲げてキッチンから出れば、振り向いたにのの表情に思わず動きが止まった。
…っ!
いつもよりやけに潤んだ瞳を揺らして、前髪がかかった眉は切なげに下がっていて。
ほんの一瞬の表情だったけど、やけに色っぽく見えていつものにのじゃないような気がした。
「あぁ、そだね…それか、もし相葉さんが良ければさ、泊まってっていい?」
窺うように見上げるその表情はもういつものにのに戻っていて、それよりも発せられた言葉に少なからず動揺してしまい。
「…あ、うん、俺は全然いいけど…」
にのがうちに泊まるなんて珍しくて、突然の訪問やこんな急展開に意味もなく緊張しているのを自覚する。
なんだろう?
なにを考えてんだろう…?
やっぱり、役作りのこと関係あるよね…?
ソファに座って勝手にテレビをつけだしたにのを見遣って、再びキッチンへ戻り簡単なおつまみ作りに取り掛かった。
***
テレビを観ながらビールを飲んで、ちょこちょこつまんで。
やっぱりいつもと変わらないにのに、さっき見た表情は見間違いだったのかとさえ思えてくる。
俺も俺で、さっきまでの緊張感はどこへやらで、純粋ににのとの宅飲みを楽しんでいた。
すると、ソファを背凭れにして床に座り込んだにのが、ビールをくいっと煽って思い出したように口を開いて。
「ぁ、そうだ。酔っぱらう前に…」
と、ぼそぼそ言いながら缶をテーブルに置いて、俺に視線を寄越した。
「あのさ、今回の相葉さんの役作りね、俺もある意味役作んなきゃいけねーのよ、」
背中を丸めてあぐらの中心に手を置くと、真っ直ぐ俺を見ながら続ける。