例えばこんな日常
第12章 まさかの大誤算/AN
「お前そんな照れんなよっ!こっちまで恥ずかしくなんだろっ」
「いやそりゃ照れるでしょ!だってお前だよ?」
お互い照れ隠しの為かやたらと大袈裟に反論し合って、同じタイミングでビールを手に取りぐいっと煽った。
ふうっと息を吐いて、しばしの沈黙のあと。
「…とりあえずさ、やってみようよ」
「うん…だな」
にのの小さい声に俺もぽつりと返して、床からソファへ座り直す。
「…じゃあ、はい」
そう言いながら隣をぽんと叩いて示せば、にのも立ちあがっておずおずと隣に座った。
右側が軽く沈むと、別にただにのが隣に座ってるだけなのにやけに恥ずかしさが込み上げる。
テレビの音を小さくしていたせいもあり、静かなリビングには微かなテレビからの笑い声が流れてくるだけ。
隣り合う俺達の間には、もちろん会話なんてあるはずもなく。
「…もっとくっつく?」
ぼそっとそう言うと、ぴくっと肩を揺らしたらしいにのがもぞもぞとお尻を動かして。
ぴったりと俺の右半身にくっついたにのの体から、ぬくもりが伝わってきてなんだかむず痒い。
にのも同じことを思ったのか、ほんの少し笑みをこぼしてじっとしている。
にのとこんな風に体を寄せ合うことは別に嫌ではないし、今までだって撮影やらで何度もやってきた。
だけど、カメラもなければ完全に自宅である空間でのこの状況に、どうしたって照れ臭さが抜けなくて。
「…ねぇ、どきどきします?」
ふいの声に視線を向けると、少し下にある至近距離の瞳がこちらを見上げていた。
その顔はやっぱり恥ずかしそうに半笑いで、お互いになかなかそんな気持ちにはなれないでいることを物語っていて。
「う~ん…どきどき、っていうより照れ臭いよね」
「んふ、そうね。きゅんどころの話じゃないわこれ」
密着したままくすくす笑い合っていると、いつの間にか変なむず痒さがなくなっているのに気付く。
あれ?
…あ、そうか。
別に、変にかしこまってない方が意外といけるんじゃないかな。
ムードとか、そもそも俺らなんだし。
そう思ったら急に恥ずかしさとか緊張感とかが薄れてきたような気がして。
無造作に傍にあるにのの左手を握ってみると、その馴染みのある感触に思わず笑ってしまった。