例えばこんな日常
第12章 まさかの大誤算/AN
もしかしたら、この感覚は元々持ち合わせていたものなのかもしれない。
それに今、ようやく気付いたんだ。
あまりに近過ぎて、考えもしなかったこと。
あり得ないと、最初から排除していた気持ち。
だけどこれは…紛れもなく。
長い口付けにさすがに苦しくなったのか、胸板を押されて惜しみつつ唇を離す。
包んだままの頬は赤く染まり、離したばかりの唇は艶やかな色を帯びていて。
そしてうっすら開いた瞳は潤んで、ぼんやりと揺れながら俺を映している。
はぁっと小さく息を吐いたあと、ぽつり発したにのの言葉に己の耳を疑った。
「ずっと…ずっと、好きだった…
ほんとに、ずっと…」
間違いなくそう動いた唇に、思わず頬を包んでいた手を外して肩をぎゅっと掴んで。
え…
にのも、俺のことを…?
「っ、今…なんて、」
「…ずっと、好きだった」
真っ直ぐに俺を見つめてそう言うにのに、感情を抑えられずにその華奢な肩を勢い良く抱き寄せる。
「うそ…ほんとに?」
「うん、ほんとに、」
「っ…俺も、好きっ…」
「うん…」
「にのっ…大好きっ、」
「…え?」
ぎゅうぎゅうと抱き締めながら想いを溢れさせていると、急ににのの声のトーンが変わった。
俺の体を引き剥がすように離されると、さっきまでの艶めいたにのではなくいつものにのがそこに居て。
「待って待って…俺?」
「へっ?」
「いや今、俺が好きって言ったよね?」
「え?っと…」
どうやらさっきのにのの言葉は台本のセリフで、告白と勝手に勘違いした俺の方がにのに告白してしまったらしく。
「え、待って…ほんとに?」
「いやあの、違っ…」
「うそ、相葉さん俺のことそんな目で見てたの…?」
「ちょ、待って!」
目の前であからさまに自分を守るポーズをとるにのに、慌てて弁明しようとするけど。
「…まさかこのドラマ自体ウソなんじゃないの?」
「なわけねぇだろっ!ちょっと聞けってば!」
「やだ!来るな!お前ここで寝ろっ!」
「あっ、おいこらっ!」
そう吐き捨てたにのを追いかけようとしたけど、リビングのドアをバタンと閉められてそこに立ち尽くすしかなく。
…なんか、いろいろ間違えた。
ヤバい…
完全にやってしまったっ…!