例えばこんな日常
第12章 まさかの大誤算/AN
「いやぁまさかねぇ~」
いつも通りの楽屋に、翔ちゃんの一際デカい声が響く。
おかげ様で、例のドラマの撮影は順調に進んでいて。
レギュラー番組とドラマの撮影の合間、週一回の五人での収録では決まってこのセリフを吐かれている。
「まさかほんとに好きになっちゃうとはね、」
「いやマジで。やっぱ俺らのアシストが良かったんじゃね?」
ソファで寛ぎながら、お馴染みになった会話を繰り広げる松潤と翔ちゃん。
「もういいってばそれ!そうそう良かったよ、翔ちゃんたちのおかげね」
毎度恥ずかしくて軽くあしらうと、肩を揺らして笑い合う二人に照れ笑いを浮かべるしかなく。
あの役作りのおかげで、男を好きになる気持ちが分かった。
というよりも、この感覚は相手がにのだからこそのものなんだろうけど。
厳密に言うと"気付かされた"の方が正しいのかもしれない。
きっと、ずっと心の奥底にあった想い。
まさか、こんな形で自ら知ることになるなんて思ってもなかった。
だけど…
俺でさえ知り得なかった気持ちを、翔ちゃん達はずっと前から気付いていたらしく。
俺が動き出せるきっかけにでもなれば、なんて軽い気持ちで役作りの提案をしたみたいだけど。
まさかこんなに上手くいくなんて思ってなかった、とか何とか言ってたな。
そして…
「相葉さーん、」
テレビ前のテーブルから間延びした声が聞こえて近付くと。
「ねぇコーヒー飲みたい」
ゲームに興じるにのが、ちらっと上目遣いでこちらを見る。
「ふふっ、パシるなこら」
「え、相葉さんのコーヒー飲みたいなって思っただけなのに…じゃあもういいです、」
「っ、もう分かったからっ」
慌ててそう言うと笑いを堪えるように見上げられ、こうして完全に踊らされてるのを自覚する。
にのはと言うと、ずっと俺の(俺も気付いてなかった)気持ちに気付いていたらしく。
でもそれは、にのの中でも消化しきれてなかったようで。