例えばこんな日常
第14章 純情ではもう遅い/OM
今、なんて…?
超至近距離でうまく大野さんが見えてないし、もしかしたら今聞こえた言葉も幻聴かもしれない。
だけど、全く追い付かない思考とは裏腹に、この状況に本能のままに反応を示しているのは紛れもない俺自身。
「ほら…いいぞ、して」
密着した下半身の感触に笑みを浮かべながら、大野さんが鼻先でそう呟く。
そして、ぐっと更に胸倉を掴んで引き寄せられると、ギリギリ目が合う距離で真っ直ぐに見つめられ。
「…やれ。命令だ」
そう言われた瞬間、ようやく思考が追い付いて。
同時に、クリアにその言葉が耳に入ってきた。
…俺が、大野さんにキス…
これは…命令だから…、
少しでも口を開けばそこから心臓が飛び出てしまいそうで、しっかりと口を結んでそっと顔を傾ける。
くっ付けた唇は異常に柔らかくて、見届けるように触れる間際に閉ざした綺麗な瞼が脳裏に焼き付いて。
その間、数秒。
大野さんの顔の脇についた両手は震え、沿うようにくっ付けた唇も多分震えてる。
大野さん…
俺っ…
その時。
遠くで軽いチャイムの音が響き渡り、急に現実に引き戻された。
我に返ったように唇を引き離せば、ゆっくりと目を開けた大野さんと目が合って。
「…へたくそだなお前。今度はちゃんとやれよ」
「えっ…?」
そう言って体を起こそうとしたから、また慌てて飛び退いた。
ゆっくり立ち上がると、尻もちをついたような体勢の俺を見下ろしながら口を開く。
「明日からのゲーム考えたから。
…楽しみにしてろよ」
いつものようにふにゃりとした笑顔の奥に、射抜くような強い眼差しが見え隠れしていて。
大野さんの余韻が残る唇をそっと撫でつつ、明日からの学校生活に期待で体が熱くなった。
end