例えばこんな日常
第15章 この胸のトキメキは/MN
「おかえり、お父さん」
「あ!かず~!ちょ、こっち来いっ」
俺の肩越しにかずを見つけた親父が、ぶんぶんと手招きしだして。
「かず~、おかえりのぎゅうは?」
俺を引っぺがすと、歩み寄ってきたかずに向かってにこにこで両手を広げる。
「くはっ、なにそのルール」
「今決めたんだよぉ~、ほらっ来い!」
苦笑いのかずの腕を取ってぐいっと引き寄せた親父は、『かず~ただいま』と言いながらぎゅうぎゅう抱き締めていて。
俺より小さなかずの体はすっぽり親父の腕の中に収まり、その光景を見てふいに今朝の電車の中を思い出した。
俺もこんなふうに…
かずを抱き締めたんだ。
いや、抱き着かれたの方が正しいけど…
なんか、なんていうか…
なんだこの感じっ…
「う~、もう離してっ…」
「なんだよぉ~かずも冷たいのかよぉ~」
抱き潰しそうな親父の腕の中で必死にもがくかずを、もうこれ以上見てらんなくて。
「…風呂行ってくるっ!」
熱い顔を見られないようにそう吐き捨てて、驚いた顔の父さんの前を通り過ぎてリビングを後にした。
***
熱めの風呂に浸かって、頭も体もだいぶスッキリした。
風呂の中でずっと考えてたこと。
俺達家族の…原点のこと。
そもそも俺とかずは同じ病気で入院してて、小さい頃から友達だった。
それがいつの日からか、俺達は"家族"として一緒に住むようになって。
最初は、仲が良かったかずとずっと一緒に居れるってことがただ嬉しかった。
俺にとってかずは、大事な友達であり、大事な家族になった。
幼かった俺は、その家族の形になんの違和感もなく育って。
でもある時、ふと気付いたんだ。
なんでうちには父親が二人いるんだろう、って。
そして周りの友達とは家族の形が違うんだって気付いた時、すぐに浮かんできた疑問。
"親父と父さんは、どうして家族になったの?"
昔その疑問を、親父にぶつけたことがあった。
そしたら親父は、
『パパとお父さんはな、お互いが大切な存在なんだ。
だから家族になったんだよ』
と、優しく教えてくれたっけ。
…だけど。
それって、本当にそれだけ?
大切な存在って…どうゆうこと?