例えばこんな日常
第15章 この胸のトキメキは/MN
俺にとってかずは、大切な存在だ。
でもなんか違う。
友達として、家族として、とかじゃなくて。
この感覚は、この胸のトキメキは…
"潤も大きくなったら分かるよ"
そう付け足した親父の言葉が、脳裏に蘇る。
それってさ…
たまに親父と父さんがソファで寄り添ってんの見て、そこに俺とかずの姿を重ねてみたり。
電車の中で触れ合う体に、どうしようもなく熱くなったり。
さっきみたいにかずが抱き締められてるの見て、居ても立ってもいられなくなったり。
これってきっと…
やっぱり俺って…
かずのこと、好きなんだ。
そうゆう"大切"なんだ。
そしてこれは…
親父と父さんとも、同じもの。
同じ"大切"に違いないんだって、そう確信したんだ。
ずっと消化しきれないでいた、この感情の正体。
熱い湯の中でぐるぐると考えて、ようやく導きだした答え。
答えは見つかったけど、それが正解なのか間違いなのか…まだ分からない。
分かるのが、なんだか怖くて。
だから…
この答えは、もうこれ以上求めないほうがいいんだ。
今まで通り友達のような兄弟のような関係でいた方が、絶対いいに決まってるから。
俺はかずの傍で、かずを守っていければそれでいい。
かずも、家族として俺の傍に居てくれればそれで充分。
そう思おうって、思わなきゃいけないって…
自分の中で結論を出したんだ。
未だほかほかした体をベッドに投げ出して、虚ろにスマホを眺める。
すると丁度のタイミングで、軽い通知音と共に新着メッセージの知らせが届き。
タップすると、画面にはかずからの短いメッセージが現れて。
『今へいき?部屋行ってもいい?』
その文面に、思わずどきんと心臓が跳ねる。
今しがた気持ちの整理をしたばかりなのに。
いや…まだ全然しきってないのに。
スマホを握り締めたままごろんと寝返りを打ち、壁を隔てた向こう側に居るかずに想いを巡らせて。
…今、かずの顔ちゃんと見れるかな、俺。
そっと手を伸ばして、何の変哲も無い白い壁を撫でてみる。
こんなに近くに居るのに。
ずっと、近くに居るのに。
…いや、これからも近くに居たいから。
だから…