例えばこんな日常
第15章 この胸のトキメキは/MN
ーコンコン、
突然聞こえたノックに、ビクッと肩を揺らす。
慌てて起き上がりドアを見遣った時、一呼吸置いてカチャっと静かな音がして。
えっ、かず…?
するとそこからひょこっと顔を覗かせたのは、シュークリームを両手に持った父さんだった。
「っ…はぁ〜、もう…」
「え、なに?どした?そんな顔して」
キョトン顔の父さんにあからさまに肩を落とすと、なぜか楽しそうに部屋に入ってくる。
「なに?誰だと思ったの?」
「…べつに」
シュークリームを手にニコニコしながら近付いてくる父さんに、赤い顔を見られたくなくてぶっきらぼうにそう答えた。
『はい』と手渡されたシュークリームは、俺とかずが小さい頃から大好きなもので。
受け取って、手の平の包み紙をじっと見つめる。
これ、昔っからかずと食べてたなぁ…
脳裏にシュークリームを頬張るかずの笑顔が浮かんで、また顔が赤くなりそうになって。
ぐっと奥歯を噛み締めて耐えていると、父さんがベッドの端に腰掛けたから何か話でもあるのかと思って胡坐を組んで様子を窺う。
「…ん?」
「…え?」
「どした?」
首を傾げるように訊いてくる父さんに、こちらも更に窺いの眼差しを送る。
「え、いや…なんか用なの?」
「…潤のほうこそ、なんかあるんじゃないの?」
「え…?」
「なんかあった?学校のこと?」
優しく微笑みながらそう投げかける父さんに、思わず言葉に詰まってしまって。
…父さんには、いつも見抜かれる。
俺が悩んでる時、いつだってタイミング良くこうして声をかけてくれるから。
『ん?』と眉を上げて微笑む父さんに、少しだけ話を聞いてもらいたくなった。
何となく父さんのほうは見れずに、目線を胡坐の中心に置いた手元に落として口を開く。
「…あのさ、父さんってさ…
親父のこと大切?」
ぽつり呟けば、少しの沈黙の後穏やかな声が届いた。
「…うん。すごく大切だよ。
もちろん、潤もかずもね」
声色から多分凄く優しい瞳で言ってるんだろうなと分かって、照れ臭さを感じつつ続ける。
「…その、大切ってさ…
どうゆう大切?」
言い終えてゆっくりと父さんに視線を移すと、驚いたように瞬きをしてからふふっと笑った。