例えばこんな日常
第15章 この胸のトキメキは/MN
「…そうだねぇ。うん、なんて言うか…俺にとってはね、無くてはならない存在、ってとこかな…」
父さんも照れ臭いのか、組んだ指先に目線を落としてそう呟いた。
無くてはならない…存在。
「ふふっ、なに?
潤にもそうゆう子がいるの?」
「っ、違うよっ…」
緩く微笑みながら顔を覗き込まれ咄嗟に目を逸らし反論して。
「ほんと~?」
ニヤニヤした顔で見つめてくる父さんに耐えられず、立ち上がって机に向かう。
「もう勉強するから!
…シュークリーム、ありがと」
チラッと視線を遣れば、未だ座ったままの父さんがこちらを見上げた。
「…潤のおかげだよ?」
優しい眼差しのまま突然そう告げられ、何のことか分からずにその先を待つ。
「潤がさ…
俺達と家族になりたいって言ったんだから」
「…え?」
そうしてゆっくりと立ち上がって、俺の前に立った。
「潤がね…かずと家族になりたいってお願いしたから。
だから俺は、翔ちゃんが大切な存在になったんだよ」
父さんの言葉を聞いた瞬間、脳裏に小さい頃の記憶が蘇ってきて。
あ…
「…潤にとって、かずは大切?」
「……うん、」
「ふふっ…そっか」
そう言うと、俺の手の平を取り持っていたシュークリームを置いて。
「これ、かずのぶん」
「…っ、えっ?」
満面の笑みで手渡されたと思ったら、くるっと背を向けて『よろしく』と手を振りながら父さんは出て行った。
ドアを見つめてから、手の平に置かれたシュークリームに視線を落とし。
なんか…
父さんにはもうバレてる気がする…。
はぁっと溜息を一つ溢し、ベッドに投げ出していたスマホを手に取る。
それから、白い壁をチラリ見遣って。
既読にしたまま放置した、かずとのメッセージ。
『いいよ』と文字を打とうとして、またポンとベッドに放った。
なんだか今は、俺がかずに会いに行きたい。
今かずの顔を見たら、もしかしたら言わなくていい事を口走ってしまうかもしれない。
でも、それでも。
今すごく、かずに会いたくなってんだ。
放っておいたらどんどん高鳴る心臓の鼓動。
それに後押しされるように、シュークリームを二つ持って部屋のドアを開けた。