例えばこんな日常
第15章 この胸のトキメキは/MN
カリカリというシャーペンの滑る音と、ページを捲る紙擦れの音しか響いてないこの部屋。
今朝から具合が悪かったかずは、体育の後の数学は保健室で寝ていたそうで。
俺のクラスと授業進度がほぼ同じで良かったけど。
部屋にノートを取りに行って、渡したらすぐ戻ろうと思ってたのに。
『分からないとこがあるから教えて』
なんて言われてしまって、動揺しつつも今こうしてかずの部屋に居る。
ベッドを背凭れにしてラグに座り、机に向かう猫背をぼんやり見つめて。
俺がかずのことで葛藤してるなんて…
きっと1ミリも思ってないんだろうな。
かずはさ…
俺のこと…
ふとシャーペンの音が止まったかと思うと、くるりと振り向いたかずにまた肩を揺らす。
「ねぇこれどうゆうこと?」
『ここ』とノートを掲げて箇所を指差し、じっと見つめられ。
慌てて立ち上がり、座っているかずの隣に屈む。
「これさぁ、なんでこの数式?」
頬杖をついてトントンとノートを叩く指が丸っこくて、こんな指だったっけと改めて思って。
…可愛い。
自然に出た心の声に自分でも驚いた。
"可愛い"という言葉を、かずに使うなんて思ってもみなかった。
そしてこんなに違和感なくハマる言葉だったなんて、それも思ってもみなくて。
可愛い…
かずが…可愛い。
「…潤くん?」
「うわっ!?」
ふわふわした思考が、かずの小さな問い掛けで引き戻された。
同時に、大袈裟なくらい驚いて大きな声を出してしまって。
それに驚いたかずも、ビクっとして頬杖に握っていたシャーペンを落とした。
「ちょ…なに?どしたの…」
「いやっ…なんでもな、」
「てか顔赤くない?熱あるんじゃないの?」
心配そうに椅子から立ち上がったかずが、すっと手を伸ばしてきて。
ぴとっと俺のおでこにその可愛らしい手を当てながら、窺うような眼差しで見上げてくる。
その至近距離で目が合った瞬間、体中の血が騒ぎながら駆け巡っていった。
あ、やば…
俺、やばいっ…
「…これ熱あるって。ちょっとおとー呼んでく…」
「かずっ…!」
おでこから手が離れようとしたのを制するように、気付いたらそのままかずの体を引き寄せていた。