例えばこんな日常
第16章 憧憬モノローグ/AN
それからの俺は、自分でも驚くほど変わったと思う。
今まで全く気にもしてなかった"オシャレ"に気を遣うようになって。
とは言っても、フリーターの俺には財布の限界があるから、劇的に変わったとは言えないんだけど。
安い服をカッコ良く着こなすにはどうしたらいいかとか、小物でオシャレ感を出すなら何がいいかとか。
コンビニでマンガしか立ち読みしてなかったのに、今ではファッション誌に手を伸ばすまでになった。
それもこれも…
相葉さんに、近付きたいから。
相葉さんみたいにカッコ良くなりたいってあの時思ったんだ。
俺は相葉さんみたいに背も高くないし、あんなに上手く喋れないけど。
でも、せめて…
相葉さんの住む世界に一歩でも近付きたい。
あんなキラキラした場所にいる相葉さんの眼に、俺が少しでも映ることができたら…
相葉さんは、俺の憧れなんだ。
定期的に訪れるようになった、潤くんが働く美容室。
もちろん指名は相葉さん。
「にの、今日はどうするの?」
「えっと…サイドを少し整えてもらって…」
いつものように、相葉さんが俺の髪を触りながら鏡越しに目を合わせてくる。
潤くんの影響か、相葉さんも俺のことを"にの"と呼ぶようになり、ここ数ヶ月の間で一気に新密度が増した。
今日も相葉さんはカッコいい。
少し髪染めたかな?
なんかアッシュっぽくなってる。
ああいうふわっと自然にセットするのって難しいんだよなぁ…
あれ、人差し指に絆創膏貼ってる。
ケガしちゃったのかな?だいじょ…
「にの?」
「ふぁっ、」
ぼーっと相葉さんの指を見てて、話の内容を全然聞いてなかった。
咄嗟に変な声が出て、気付いた時は頭の上で相葉さんが笑ってて。
「くふっ、なにその声。考え事?」
「あ、いやっ…あ、指、どうしたんですか…?」
「え?あ、あぁこれね。昨日包丁で切っちゃってさぁ」
少し眉を顰めながら話すその内容に、正直驚いた。
てっきりハサミでやっちゃったかと思ったけど、相葉さんクラスの美容師がそんなヘマしないか。
てゆうか…
相葉さん、料理もするんだ…