例えばこんな日常
第16章 憧憬モノローグ/AN
踊るように動く手元を見つめながら、さっきの話を思い出す。
料理かぁ…
俺全然できないや。
やっぱ凄いな、相葉さんは。
俺なんか到底近付けないよ。
見た目もライフスタイルも何もかも、俺とは違い過ぎる。
やっぱり…
俺なんかが近付きたいなんて思ったのが間違いだったのかなぁ…。
そんな事を考えてると段々ブルーになり、無意識に溜息が溢れてしまって。
「…どうしたの?」
ふいに声を掛けられて、慌てて目を上げる。
「気分でも悪いの…?」
鏡越しじゃなくて横から顔を覗き込まれ、急な近距離に目を合わせられずに俯いてしまい。
「なんか…今日はちょっと考え事してる感じだね」
何も言わない俺に優しくそう告げて、相葉さんはまた髪を切りだした。
それからしばらくは、小気味の良いハサミの音しか聞こえなくなって。
今までは会話が尽きることなんてなかったから、こんな沈黙は初めてだった。
こうしてくれてることが相葉さんの優しさだって分かってるのに、なんだかそれが無性に寂しくて仕方ない。
「…あの、」
耐えられなくなって口を開くと、いつもの穏やかな顔で俺と目を合わせてくれる。
「あの…どうしたら、相葉さんみたいに…
カッコ良く、なれますか…?」
この沈黙の間、悶々と考えてたこと。
やっぱり、相葉さんに少しでも近付きたい。
そうするには、どうしたらいいんだろうって。
でも、ない知恵を絞ったって何も出てこない。
だったら。
もう、思い切って聞いてみるしかないじゃん。
「え…俺っ?」
窺うように見つめながら返事を待っていると、相葉さんが手を止めて驚いた顔で訊き返してきて。
「ふふっ、俺カッコ良くなんかないってー」
「いやカッコいいですっ…どうしたら、」
「え~どうって分かんないよぉ~」
言いつつ笑いながらまた髪を切ろうとするから、遮るように続ける。
「ほんとにっ!相葉さんは…カッコいいから、俺…」
大きくなった声量と真剣な眼差しを受けて、手を止めた相葉さんが鏡越しに真っ直ぐ俺を見た。