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例えばこんな日常

第16章 憧憬モノローグ/AN






緊張し過ぎてもうどうかなっちゃいそう。


前より少しはマシになったとはいえ、こんな人通りの多い街に出向くのにも相当勇気がいるわけで。


況してや今から相葉さんと買い物に行くなんて…信じられない。


数少ない持ち合わせの服の中から、相葉さんと並んで一番釣り合いそうなものを選んで着て来たつもり。


だけど自信なんかこれっぽっちもない。


凭れてた植え込みのヘリから体を離して、もう一度足元から全身をチェックする。


…大丈夫かな、俺。



その時、ポケットのスマホが小さく震えた。


慌てて取り出せば、画面には"相葉さん"の文字。


「もっ…もしもし、」

『あ、にの?どこ?どこにいんの?』

「ぁ、西口のっ…スタバの前の、」

『…あ、あーいたいた!』


プツっと通話が途切れたスマホを握り締めてきょろきょろしていると、少し前方から小走りにやってくる人影を見つけて。


その姿に、心臓が止まりそうになった。



羽織った長めのコートを揺らしながら、細みのダメージジーンズを履いた相葉さんが駆け寄ってくる。


ざっくり首元の開いた大きめのシャツからは、きれいな喉仏が晒されてて。


ハイカットの革靴もすごく似合ってる。


おまけに髪形もいつもと違って、緩くパーマがかかってるし。


足元から頭のてっぺんまで、完璧にカッコいい。



「ごめんっ、ちょっと分かんなくなっちゃってさ」

「っ、あ、いえっ!ぜんぜんっ…だいじょ、」

「なんかにのいつもと感じ違うね」


ぶんぶん頭を横に振っているところに、相葉さんの言葉が聞こえて動きを止める。


「今日はなんか…カッコいい感じじゃん」


いつもの目尻に皺を湛えた笑みでそう言われ、体中の血がざわつきだすのが分かった。



うそっ…
今、相葉さんにカッコいいって言われたっ…!



「そ、そう…ですか?」

「うん。俺の出る幕なさそうだね」

「いやっ、そんなことっ!」

「くふ、分かってるって。じゃあ行こっか」


にっこり俺に笑いかけて歩き出した相葉さん。


すぐに追いかけて、こっそり隣に並んでみる。


少し高い位置にある横顔をチラリ覗き見れば、それに気付いたのか優しい眼差しを俺に向けてくれて。


その笑顔に、また心臓が止まりそうになった。

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